【11月24日 東方新報】古代、中国から欧州へ絹を運んだ交易の道「シルクロード」の起点、中国・甘粛省(Gansu)天水市(Tianshui)。この地で刺繍(ししゅう)の技能を継承する、甘粛省美術工芸師の劉雲帆(Liu Yunfan)さん(42)は、飛天、敦煌、石窟、彩陶などシルクロードの要素を取り入れた作品を数多く創作し、優れた伝統工芸に贈られる「中国美術工芸百花賞」の金賞を受賞した。

 1980年生まれの劉さんは、針仕事をする祖母に抱かれて育ち、5~6歳になると自ら針に糸を通し、着ている服をつくろうことができた。その後、彼が刺繍した作品の出来栄えには同じ村の多くの女性たちが感嘆のため息をつくようになったという。

「男刺繍師」などとあだ名を付けられ、からかわれることもあったというが、劉さんは苦労して刺繍を仕事にし、美術や歴史を学ぶようになった。

「甘粛省に生まれてよかった。広大な甘粛省には、多くの民族が共存し、農耕と遊牧文化が融合し、豊かな歴史遺産がのこされているからです」。劉さんは語る。

 すでに南北朝時代には仏教の世界を描いた刺繍が芸術作品として扱われていたという。刺繍をほどこした衣服は皇帝のステータスシンボルでもある。

「刺繍の紋様とは、民族文化のルーツそのもの。刺繍を極めるためには民族の美術を学ばなければならない」。こう考えた劉さんは、2014年から中国の名門大学、清華大学(Tsinghua University)で5年間の集中講義を受け、中国刺繍における「絵画と刺繍」の融合に関心を持つようになったという。

 大学での研修中、劉さんは中国に駐在する31か国の外交官に、龍の刺繍を披露したこともある。国際的にも有名になった彼の作品は海外でも所蔵されるようになり、中国刺繍の芸術的価値を世界に知らしめている。

 彼の刺繍が評価されるまでは平坦ではなかった。高校卒業後、劉さんは中国南部で働きながら刺繍を学び、肉まん一つで1日を過ごすこともあったという。有名になった今も悩みは尽きない。その一つが後継者不足だ。

「この刺繍はやや土の色が多く、若者に受け入れられにくいようです。絵柄残しつつ、他の色と合わせていくことで、モダンでファッション性のある作品になると思います。より多くの若者の目に触れるようになれば、技能を継承していけるのではないでしょうか」と劉さん。

 自宅には毎日のように刺繍を習いに来る学生たちがいて、劉さんは針の通し方を教えたり、刺繍や自身について話したりしている。刺繍する一針一針に家族の温もりや記憶を織り込む。そんな劉さんの元に、後継者候補が現れる日は決して遠くはないだろう。(c)東方新報/AFPBB News