【11月14日 東方新報】チベットの仏画「タンカ(唐卡)」の里の一つとして知られるようになった中国・青海省(Qinghai)黄南チベット族自治州(Tibetan Autonomous Prefecture of Huangnan)同仁市(Tongren)。チベット高原の周縁部に位置し、牧畜と農業のほか目立った産業がなかった地域が、タンカのおかげで豊かな街に生まれ変わりつつある。

 タンカとは、僧侶が村々を回って布教するために掛け軸などに仏教の世界観を描いたもの。その顔料はオニキスや金や銀など天然の植物や鉱物から作られており、色鮮やかで色あせしにくいのが特徴だ。欧米では「東洋の油絵」とも呼ばれる。

 その芸術的な価値を世界に知らしめたのは、あるオークションだった。2014年11月27日、競売大手クリスティーズ(Christie's)のオークションに出品された明代永楽年間のタンカが3億4840万香港ドル(約62億円、当時のレートで約52億円)で落札されたのだ。落札したのは上海の大富豪、劉益謙(Liu Yiqian)氏。国際的なオークションが取り扱った中国美術としては、史上最高の落札額だった。

 2008年に開催された北京夏季五輪前後から中国伝統の芸術作品の高騰は続いていたが、それが欧米にもファンがいたタンカに及んだ形だ。「どの家もタンカを描き、どの家にも絵師がいる」と言われる同仁市にも、外地からタンカの買い付けに訪れる商人が目立って増えたといわれる。

 中国メディアによると、貧困を撲滅して「共同富裕」を目指す中国政府のプロジェクトの一環として、同仁市にはタンカや刺繍(ししゅう)、彫刻、木彫り、石彫りなど400以上の文化企業が育成され、4万人余りが雇用されている。

 そのうちの一つ、同仁市内の「龍樹画工房」では、これまで数百人がタンカの技術を学び、うち30人以上が年間50万元(約980万円)以上の収益をあげている。ここでは生徒たちは無料で入学できるだけでなく、年間2万元(約39万円)から15万元(約294万円)の報酬を受け取ることもできる。生徒でありながら従業員として報酬を得ることもできる仕組みだ。

 一方、高値で取引されるようになり、産業化の色彩を帯び始めた現代のタンカについて、古くからのタンカ愛好家から「最近は(売れる作風ばかりで)いいタンカが少なくなった」と嘆く声もあるという。

 だが、チベット大学(Tibet University)芸術学部准教授の劉洋(Liu Yang)氏は「時代に合わせてはじめて、新しいタンカ芸術を世界に知ってもらうことができるのではないか」と語る。

「芸術の価値」をめぐる論争には終わりはなさそうだが、町おこしの起爆剤になったタンカが、今後も色あせずに伝承していくことを願う人は多い。(c)東方新報/AFPBB News