【4月28日 東方新報】スマートフォンを使ったキャッシュレス決済が日常化した中国では財布を持たない生活が当たり前となったが、スマホをうまく操れない高齢者の「デジタル・デバイス(情報格差)」が問題となっている。

 中国では60歳以上を「高齢者」としている。あるデータによると、中国で携帯電話を持つ高齢者は2億7400万人いるが、インターネットを利用しているのは半分以下の1億3400万人。差し引き1億4000万人がインターネット上の「サイレントピープル」となっている。

 中国ではタクシーに乗るのもスマホの専用アプリで呼び寄せるのが主流となっている。このため、お年寄りが路上でタクシーをつかまえようとして、30分も立ち続けるという光景があちこちで見られるようになった。役所に社会保障費を納付しようとしても、「現金は受け付けない。スマホ決済のみ」と断られる地域もある。

 新型コロナウイルス感染症が拡大して以降、問題はより深刻になった。移動履歴などから感染リスクを判定する「健康コード」というアプリが浸透し、バスに乗るにも建物に入るにも提示が求められる。スマホを持っていない高齢者が公共トイレの利用を拒否されたこともあり、批判も起きた。

 これを受けて政府は紙の健康証明書を発行し、現金決済や対面サービスの拒否を禁じる措置を取っている。そして李克強(Li Keqiang)首相は3月の全国人民代表大会(全人代)で「スマートデバイスが、高齢者の日常生活の妨げにならないようにする」と表明した。

 インターネット業界も課題に対応しようとしている。中国で6億人がダウンロードしている音声サイトアプリ「喜馬拉雅(Ximalaya)」は、スマホ画面の文字を大きくし、広告サイトなどを表示しない「高齢者バージョン」を開始。中国のグーグルといわれる検索エンジン大手「百度(Baidu)」やアリババグループのオンライン決済サービス「支付宝(アリペイ、Alipay)」も高齢者向けの仕様を取り入れている。

 しかしそれでも、当の高齢者の間からは「高齢者バージョンにする設定方法が分からない」「孫に設定はしてもらったが、使い方がまだ分からない」という声が出ている。

 北京大学(Peking University)心理・認知科学学院の張昕(Zhang Xin)准教授は「高齢者バージョンのアプリといっても、若者のエンジニアが高齢者のニーズを推測して作成しているのが実態だ。高齢者の本当のニーズを追究し、利用意欲を高める内容にしなければならない」と指摘する。

 中国発展研究基金会の昨年の発表によると、2050年には60歳以上の人口は5億人に迫り、全人口の3分の1を超えるという。高齢者が本当に使いやすいスマホアプリは、今の若者にとっても必要となってくる。(c)東方新報/AFPBB News