【4月10日 Xinhua News】青石を彫って作った石笛は、青黒い色彩が古き時代の趣を感じさせ、触るとひんやりと冷たい。澄みきった張りのある音色で、余韻がいつまでも残る。

 中国安徽省(Anhui)の無形文化遺産伝承者、方如金(Fang Rujin)さんは「竹笛よりも音が高く、よく通る。特に高音の表現力に秀でるが、制作はとても難しく、過去には伝承が途絶えたこともある」と語る。方さんはこの数十年、故郷の同省黄山市(Huangshan)黟(い)県の工房で、材料の調達、切削や彫刻、調律を繰り返し、3本の石笛を制作。いにしえの音色を復活させた。

 笛は中国で最も古くからある吹奏楽器の一つで、竹で作られることが多い。黟県の県誌によると、清の乾隆年間に余香(Yu Xiang)という名の石刻家が同県の青石を使って石笛や石簫を制作した。その音色は澄みきり、抑揚に富んでいたという。ただ、人々を感動させた「余香の石笛」がその後作られることはなかった。

 方さんは1958年生まれ。1980年代に父の仕事を継いで石刻制作を始め、今では黟県一帯で名の知れた石刻家となっている。300年前の余香と同様、音楽に精通し、特に笛を好む。若い時に地元の老人から「余香の石笛」の話を聞き興味を持った。

「石笛の大まかな制作工程は知っていたが『余香の石笛』については息をのむような美しい音色としか伝わっておらず、実際に制作を始めると難航した。設計から材料の選定、彫刻、調音すべてが手探りだった」と振り返る。完成までに数百トンの石材を費やし、50種類以上の工具を改造するか、一から制作した。古籍や伝承には、石笛の長さや厚さ、音孔の口径などに関する情報はなく、年配の職人を訪ね、音楽や楽器の理論書をひもとき模索した。

 方さんは自身が制作した石笛を手に「この笛の音孔部分の厚さはわずか2・5ミリ、長さは同じ調の竹笛より3センチ長い。長さが1センチ長くなれば、音色も変わるし、石が割れる可能性も高まる」と説明する。

 試行錯誤を繰り返し演奏可能な最初の石笛を完成させたのは2000年。10年を要した。「回り道もしたが必要なプロセスだった。実際の制作で調整するしかなかった。細かな音色と音程の調整を繰り返すことで黄金比率にたどり着いた」と語る。

 方さんは2010年、「余香の石笛」を復元した技術を認められ安徽省無形文化遺産伝承者に認定された。16年には安徽省工芸美術大師の称号も得た。

 石笛は一つの調しか奏でることができない。すべての調で演奏するには7本必要になる。方さんがこれまでに作ったのは3本。今後も努力を続けるという。(c)Xinhua News/AFPBB News