【5月2日 CNS】「アジア一の毒ヘビも蛇遣い女王の敵ではない」。そんな見出しが書かれた、黄ばんだ1997年の新聞記事の切り抜き。壁に張られた切り抜きには、片膝をつき、笑顔で4メートルもあるキングコブラを手に持つ女性が写っている。写真の女性は周嘉玲(Zhou Jialing)さんで、香港で父親の事業を引き継ぎ、ヘビなどの滋養強壮スープを販売する、現地では有名な店を営んでいる。

 13歳の時、父親について仕事を始めた周さん。勉強が苦手だったが、ヘビの店で仕事を手伝うのは楽しかったという。そんな周さんも、最初はヘビが怖かったという。しかし、ヘビを敬い、慎重に扱うように気を付けるうちに、今ではまったく怖くなくなったという。

 周さんは、そばに置いてある棚からキングコブラを取り出すと、腕に巻きつけたり、踊らせるようなしぐさをしたりしながら、何事もなかったかのように話したり笑ったりする。一方、店内の飲食客は顔色を変え、後ずさりしていた。

 1980~90年代には、レストランに呼ばれて余興でヘビを使った踊りを披露し、テレビ局や映画制作会社などから引っ張りだこになった。出演した番組がきっかけで、香港で一躍有名になったこともある。

「以前はスターのような時期もあったけど、今はもうおなかも出ちゃったし、お芝居や踊りの専門的な訓練をしたわけでもないので、ヘビのショーはもうやっていません」

 これほど長い間、ヘビとの付き合いがある周さんも、常に運に恵まれていたわけではない。周さんの手のひらには、ほぼ貫通しているのではないかという黒い傷痕がある。2005年に、ヒャッポダという毒ヘビに布袋越しにかまれた時のものだ。かまれた時は血が止まらず、腕まで大きくはれ上がった。

 もう助からないとあきらめた周さんの家族は、最期に一目会わせようときょうだいを呼び戻したほどだ。一方、周さんは家族に冷静に指示して伝統薬を煎じてもらい、それを飲んで毒素の拡散を抑えた。また、大陸の病院の方がヘビの傷の治療経験が豊富だと考え、すぐに車で広東省(Guangdong)へ向かい、東莞(Dongguan)の病院で治療を受けた。

 一命を取り留めた周さんは、仕事を辞めることも考えた。ヘビの販売は決してもうかる仕事ではなく、繁殖コストも上がり、香港で輸入できるヘビの数量も年々減少。ヘビの肉や肝なども、若い人たちに受け入れられなくなった。今後は、ヘビ肉を使った味のいい料理を提供することにしている。(c)CNS/JCM/AFPBB News