朱さんは翌月、血がつながっていると判定された息子、劉さんと対面した。元家政婦に連れ去られた後、女の親戚の家に預けられ、誰にも気に掛けられず、栄養も教育も行き届かず、中学校も途中で行かなくなり卒業しなかったという。17年に失恋してからは大酒を飲むようになり、体を壊しているという。仕事もアルバイトばかりであまり長続きせず、貧乏暮らしだという。

 劉さんは、あまり自分の意見を言うことが得意でなく、何に対しても消極的だった。本当の母親を知った後も四川に住み続けていて、時々は朱さんに会いに重慶に来るが、二人で話していても、朱さんが長々と説教をし、それを頭を垂れて聞いているだけだ。

 朱さんは、元家政婦にちゃんと育ててもらえなかった劉さんが、何を考えているのかまったく検討がつかないが、いつか必ず分かり合えると信じている。

「盼盼」として朱さんに引き取られ20年以上育てられた「長男」は、大学を出て金融会社に勤めている。

■技術的な問題

 メディアの報道を通じて朱さん親子の数奇な運命を知った河南省高級人民法院は今年3月、朱さん宅へ職員三人を派遣した。うち一人は、法院の賠償関係の担当者だった。三人は河南省高級人民法院の謝罪の意を伝えると共に、当時の鑑定について調査を行うと報告した。

 今年6月、同法院から再び担当者が訪問し、朱さんに対して精神的苦痛を与えた代償として5万元(約84万円)を支払うと提示した。法院の説明は、当時の鑑定に法的な問題は存在せず、おそらく技術的な問題だったと判断したとのことだった。

「他人の子どもでも、自分の子どもでも、20年以上も育ててきたのであればもう家族と同じじゃないですか」。担当者は言った。朱さんは、「誠意も謝罪の意も感じられない」と憤慨した。

 朱さんは現在、同法院を相手取って訴訟を起こす準備をしている。朱さんはまた、この提訴を通じて劉さんに、過去に縛られず、「立ち上がれ。そして歩き出そう。少なくとも、被害者になって泣き寝入りだけはするな」と伝えたいのだという。(c)東方新報/AFPBB News