【7月26日 MODE PRESS】日本人デザイナーとしてフランス・パリで30年間にわたり、「ジュンコシマダ」ブランドのコレクションを発表し続け、世界的な活躍をする島田順子(Junko Shimada)氏。ブランド創立30周年を迎えた今年、母校である杉野学園のドレメサマーセミナーで特別講義を行った。

 今回のテーマは「ファッションデザイナーといわれて」。幼少時代の記憶や杉野女子大学で学んだ日々、フランスでデザイナーとして仕事をしてきたなかでのこだわりやファッションに対する長年の熱い想いを約1時間半にわたり語った。

■ファッションは衝動

「学生時代、私は間違いなく劣等生だったの」と講義がスタートすると同時に語り始めた島田氏。「正統派のお嬢様スタイルが当時、世の中の多くの女性に支持されていたから、杉野先生に校内でお会いするといつも“アナタはうちのスタイルじゃないわね”なんて言われたものです。それでも、私は自分が着たい服を着ていた。周りの人や世の中の流れは気にしていなかったの。それは服をデザインするときも同じで、自分のこだわりを持って作りつづけていたら、世の中の女性が支持してくれるようになったのね」と振り返る。

「もちろん、なんでも基礎を学ぶことは大事。けれど、周りの目や意見に惑わされてはダメね。ファッションって、私たちが生活しているすべてを取り囲むものだから、流されてしまうと自分自身を見失ってしまう。ファッションは衝動なのよ。胸に響くような・・・胸を打つような、感情的な部分を捉えること。作った商品なり作品が、買ってくれる人の心を突き動かせなければいけないと思うのよね。しかし私たちデザイナーは、アーティストとは違うので、お客さんに買って着てもらって初めてビジネスが成立する。市場と自分のドッキング、難しいけれど、なんだか30年も続けて来られちゃったわね(笑)。最近、トレンドトレンドってみんな言うけれど、そんなものに左右される物づくりは、私には合っていないの。そもそも世の中の流れや時代背景を受けた心理的なものが反映された結果、トレンドって言われているのであって、ファッションはそのトレンドありきで動いているわけではないと思うわよ」

■自分に素直で正直でありたい

「“ジュンコシマダ”というブランドは今年30周年だけれど、それ以前からパリでデザイナーとして仕事をしているので、本当に長い間、この仕事をやってきた。これしか出来ないのよ(笑)。基本的に後ろを見ない性格でね、いつもコレクションが終わると反省やらなんやらで頭がいっぱいになる。けれど、くよくよしたって仕方ないでしょ。明日のことを考えた方がポジティブじゃない。過去は振り返らないのよ。だから、過去の作品や資料はとってないの。思い出って基本的に好きじゃないのよね・・・。良い思い出は時々思い出すけれど、悪い思い出はすっかり忘れちゃう」と笑う。

 また物づくりに対して、「私の(物づくりの)ベースにあるのは、子供の頃の記憶かしら。子供の頃にみた映像や感覚。今までのコレクションを振り返っても、それは自分にとってとても大事なキーワード。そして、美しいものを美しいと思える感覚こそ、すべてなんじゃないかしら・・・・これは年齢なんて関係なくて、いつでもそんな自分に素直で正直な気持ちでありたいの」と語った。

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 昨年、長年連れ添った夫に先立たれた。東北大震災にいたっては、日本から遠く離れたフランスで、様々な想いを馳せた。これまでにないほどの深い悲しみに打ちひしがれながらも、それを乗り越え今年3月、パリで最新コレクションを発表した。デザイナーとして、母として、そして妻として、多くの顔を持ちながらも島田順子はその先を見続ける。強さと優しさが降り混ざったその眼差しの奥には、幼い頃から変わらず常に自分に正直であろうとする姿がみえる。そんな女性が作り出す「ジュンコシマダ」は、これからもますます、世の中の女性たちを突き動かすスタイルを生みだし続けるだろう。【岩田奈那】(c)MODE PRESS