【1月17日 東方新報】「男尊女卑」や「男らしさ」の思想から解放され、「良い男性、夫、父親になる」ことを学ぶ「男徳班(男性の道徳クラス)」が中国で昨年9月にスタートした。

 取り組みを始めたのは、社会学・ジェンダー学者の方剛(Fang Gang)さん。「『男らしさ』の弊害」「家事・育児のスキルを高める」「ドメスエティックバイオレンス(DV)の原因」「思春期の子どもと仲良くする方法」などのオンライン講座を開いている。「男は泣いてはいけない」という伝統的価値観に対し「涙のススメ」を説き、妊娠中の女性への理解を深めるため、おなかにバスケットボールをくくりつけ、しゃがんで地面の物を拾うプログラムも取り入れている。

 方剛さんは「ジェンダーの固定観念を超えて、男性の特権意識を取り払いたい」と説明。また、自身が子どもの頃に「男らしくない」「弱虫」と言われた体験から、「男性自身も『男らしさ』から解放される必要がある」と訴える。

 1949年に建国された中華人民共和国で、最初に施行された法律は1950年の婚姻法だった。儒教の価値観に基づく家父長制の家族制度を廃し、男女平等の理念をもとにしている。女性の社会進出も進み、現在では夫婦共働きの家庭がほとんど。幼稚園では園児に1日3食が出るのは当たり前で、女性がフルタイムで働きやすい環境となっている。男性が料理をするのは普通だし、早朝から開いている飲食店や屋台で両親と学校に通う子どもが朝食を済ますことも珍しくない。育児・家事の社会化は日本より進んでいる面もある。

 とは言え、育児・家事はやはり女性の負担が多いのが実情。2021年の調査では、0~17歳の子どもがいる家庭で、女性が「子どもの日常の世話をする」割合が76%、「勉強を教える」は67%、「送り迎えをする」は63%となっている。炊事、掃除、買い物に費やす平均時間は女性が154分間で、男性の2倍だ。

 最近は「喪偶式育児(夫のいない育児)」が流行語にもなった。夫が何もせず、妻の「ワンオペ育児」となる状態を指す。ある女性は「父愛如山(父の愛は山の如し)と言いますが、本当にそうですね。夫は帰宅してもずっとソファに座ってスマホでゲームしているだけですから。隣で赤ちゃんが泣いていても、私に『おい』と言うだけですよ」と不満をぶちまける。

 中国各地では最近もたびたび、学校の授業や地域の特別講習などで「女徳班(女性の道徳クラス)」が開かれる。「女はののしられても口答えをしてはならない」「不条理なことでも我慢する」「出前を頼んではならない」「何があっても離婚してはならない」という教えで、講座が発覚するたびに当局から停止処分を受けている。方剛さんたちは自分たちの取り組みを「全参加型の良い男性」と呼んでおり、「男徳班」というのはマスコミなどの勝手なネーミングで、否定的なニュアンスが込められている。

 方剛さんは2015年にも、「男徳班」と言われる取り組みを始めた。マスコミに報道され注目を集めたが、受講を希望したのは3人だけ。予定していた6日間のプログラムを3日に短縮して終了した。

 それでも方剛さんは「7年間で社会が大きく変化した」という。この間にDV防止を目指す「反家庭暴力法」や、保護者の家庭教育の責任を明確にした「家庭教育促進法」が施行された。中国政府が2021年に発表した行動計画「中国女性発展綱要(2011~2020)」では、性差別禁止の徹底や高等教育機関での女性学の普及率向上などを求めている。

 方剛さんが昨年再挑戦した「男徳班」には十数人が参加。教員や心理カウンセラーなど日ごろから問題意識を持った人が中心だが、その中から地域のリーダーになる人も生まれている。今後は中国東部の上海市、西部の四川省(Sichuan)成都市(Chengdu)、南部の広東省(Guangdong)深セン市(Shenzhen)でリアル講座を開こうとしている。(c)東方新報/AFPBB News