中国のコロナ対策激変 収集した個人情報はどうなる
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【1月6日 東方新報】中国で厳格なコロナ対策が急激に緩和された。
「広東省(Guangdong)へ訪問歴のある人は、5日間の隔離が必要です」
高速鉄道で中国・安徽省(Anhui)合肥市(Hefei)の駅に到着した男性は、係員にそう告げられた。男性が示した行動記録のアプリには、広東省への訪問歴が記録されていたからだ。確かに男性は、前の週に広東省の深セン市(Shenzhen)に出張していた。
男性は2日間の予定で合肥に出張に来たのだったが、5日間も隔離が必要なら計画が狂ってしまう。ところが、待合室にいて1時間もしないうちに、今度は「もう隔離は必要なくなったので駅を出ても構わない」と係員から告げられたという。
男性がそんな経験をしたのは12月7日の午後。実は、その日、中国政府がコロナ規制の大幅な緩和策となる10項目にわたる新たな方針を発表した。そこには、今後、健康コードや陰性証明の提示を基本的には不要とすることや、高リスク地域以外では人の移動を制限しないことなどが含まれていた。合肥の駅ではこの新方針が、発表後すぐさま実践されたわけだった。
中国政府はこの新方針で示したように、これまで続けてきたゼロコロナ政策を事実上放棄した。3年にわたる厳しいコロナ規制で、すっかり日常生活に溶け込んださまざまなコロナ対策も過去のものとなりつつある。
なかでも大きな変化は、レストランやショッピングモールなどに入る際に提示を求められた「健康コード」がほぼ不要になった点。健康コードとはスマホにダウンロードしたアプリで表示されるもの。スマホ所有者の行動履歴やPCR検査の結果などが反映され、その人の感染の有無や感染リスクが示される。つまり健康コードによってそれらのリスクが無いということを証明できなければ、まともな社会生活が送れなかったと言っても過言ではない。
健康コードは地方によって違いがあるが、基本的には中国人全員が持っている身分証の番号や、顔認識のための顔の特徴などの情報が集積されている。コロナ禍の生活で必需品となっていく中で、交通カードやキャッシュレス決済の機能を付与させたものも登場した。健康コードは、ゼロコロナ政策を支える大きな柱ではあったが、蓄積する情報はプライバシーの領域まで及んでいたことも事実である。
「大部分の情報は防疫対策に必要なものですが、感染の抑え込みを重視するあまり、十分な検証がされないまま、必要以上の情報を集めていた例もあります。特定の金融機関の口座の情報や生活習慣の情報などは、明らかに理にかなっていません。複数の部門が重複して情報を収集する状況が普遍的に存在していて、必要最小限という原則には従っていませんでした」
個人情報に詳しい弁護士はそう指摘する。
ハイテクを駆使した中国のゼロコロナ政策は、しばしばプライバシーとの兼ね合いが問題視されてきた。2022年5月半ばから杭州市(Hangzhou)や天津市(Tianjin)など、複数の都市で採用されていた「場所コード」もその1つ。場所コードとは特定の建物や施設に入る際に、利用者がスキャンを義務付けられたもの。利用者の情報が自動的に登録されると同時に、その人の健康状態が示される。情報がビッグデータに集積され感染経路の特定などに有用とされていたが、当初から個人情報の保護の観点から懸念があった。この場所コードもコロナ規制の緩和に伴い廃止される方向となった。
今後は、健康コードや場所コードが集積した個人情報が、流出したり悪用されたりしないよう、きちんと管理、あるいは廃棄されるかどうかにも注目していく必要がある。
中国政府は12月27日、国内での規制緩和に続き、入国者への隔離措置を来年1月8日に撤廃すると発表。水際対策も緩和する。中国の国民はコロナ発生以来、3年を経て初めて行動制限がほぼない生活を取り戻した。それは、感染対策と私権の制限との兼ね合いについて改めて考えてみる良い機会にもなりそうだ。(c)東方新報/AFPBB News