【3月8日 AFP】ロシア軍の攻撃にさらされているウクライナの首都キエフ西郊のイルピン(Irpin)から逃れるためには、氷のように冷たい川に半分水没した幅わずか50センチの板が生命線だ。ロシアの爆撃を逃れて川を渡るため、このぐらぐら揺れる避難路を利用した人はすでに1万人に上る。

 イルピンから脱出する人々は、西に向かう列車が出発するキエフを目指す。だが、その間を流れる川のコンクリート製の橋は、ロシア軍の進攻を遅らせるため、ウクライナ軍の手によって爆破された。

 週末には、橋の周辺で町からの脱出を試みていた数人がロシア側からの砲撃により死亡したが、なおも多くの民間人が危険な脱出劇を続けている。人々に加え、あらゆるものがこの板切れを渡る。犬、乳母車、スーツケース、バイクのほか、負傷者やカーペットに包まれた遺体もここを通っていく。

「友人が車で橋まで連れて来てくれた。道路を走行している際には、あちこちで発砲があったが、渡りきることができた」と、キエフ側の川岸にたどり着いた女性は語った。

 この非公式の「人道回廊」を設置したのは、イルピンのオレクサンドル・マルクシン(Oleksandr Markushyn)市長だ。ロシア側とは調整していない。市長は「ここでは誰も(ロシア側が提案する)『緑の回廊』について話す者はいない。イルピンは戦いのさなかにあり、降伏するつもりはないからだと思う」と述べた。

 市長は「恐らく2~3日のうちに、まだ1万人が退避するだろう」と予想しているが、「退避を拒否している人も、同じ数だけ存在する」と語った。(c)AFP/ Daphne ROUSSEAU