【9月12日 東方新報】すべての部屋が遺骨を納めるスペースとなっているマンションが16棟も並ぶ「納骨団地」が中国・天津市(Tianjin)にあり、地元当局が違法運営の疑いがあるとして調査に乗り出した。公営納骨堂として建設されたが、一般に部屋を売買する「私物化」が行われていたという。墓地や納骨用の土地が不足している中国の事情を反映した騒動として、国内で注目が集まっている。

 問題の「納骨団地」は、天津市で開発が進む浜海新区にある。2010年に新たに工業団地を建設する際、地域に古くからある土墳(土まんじゅう型の墓)を移す必要が出た。さらに今後の墓地や納骨用の土地不足も解消するため、地元行政が公営納骨堂を建設し、地元の住民でつくる委員会に運営を委ねた。すると委員会は一般向けに納骨スペースの売買を始めた。

 納骨団地は6階建てのマンションが16棟。ワンフロアごとに25室あり、部屋の面積は20平方メートルから50平方メートルまである。見た目は普通のマンションだが、窓だけは真っ黒。中国メディアの記者が内部を取材すると、黒塗りのドアに「○氏の祠堂(しどう)」と表示が掲げられ、中には遺骨が納められている。1平方メートルあたり3000元(約4万円)から7000元(約10万円)。1部屋で数十万元(約154万円)となる高値だ。ほとんどの部屋がすでに埋まっており、地元当局は委員会に活動停止を命じ、実態調査を始めている。

 世界一人口の多い中国は死亡者も当然多く、2019年は998万人が死亡した。中国では家族の墓に遺骨を入れるのでなく、個人もしくは夫婦で新しく墓を建てるのが伝統だ(世界的には日本のタイプが少数派)。面積が広大な中国でも農地に適した土地は1割程度とされ、平地が少ない分、墓をつくる場所も限られている。農村部では土葬の習慣もまだ根強い。中国政府は1997年に「葬儀・埋葬管理条例」を公布し、墓の面積も規制。さらに都市部では、樹木葬や海への散骨などを奨励し、行政が補助金も出している。

 だが、中国では祖先を大切にまつることが自身の幸福につながるという意識が強く、ちゃんとした墓や納骨場所を求める人は多い。その分、立地の良い墓地や納骨スペースの価格が高騰し、庶民からは「死不起(死ぬに死ねない)」という嘆きも聞かれる。こうした悩みや不満を解消するため、各地の行政が公益納骨堂を建設しているのだが、その納骨堂が「商売道具」となってしまった。中国では経済成長に伴い不動産価格も高騰し、住宅問題も深刻になっている。「納骨団地」の問題が報道されると、庶民の間では「生きている人間がまともな家に住めないのに、遺骨向けの部屋が高値で販売されるなんて」と怒りやあきれ返った声がわき起こっている。(c)東方新報/AFPBB News