【5月22日 東方新報】中国・北京郊外にあるポプラの林は、それぞれの木の根元に墓碑がある。墓碑にはその下に眠る魂の名前が書かれ、押印の多くは「両親」だ。

 3年間、毎週墓参りに来ているという馬さん(60)は、車で20キロ以上の距離を通っている。「劉大壮」の墓碑は、黒い大理石で作られ、ガラスケースで覆われている。馬さんは、墓前に煮卵とハムを供えた。ガラスケースの中に「劉大壮」の生前の写真が飾られている。白い小型犬だ。ここはペットの墓地、「ペット天国」だ。

 昼間は静かな雰囲気の墓地だが、夜になると別世界が広がる。それぞれの「両親」が墓前に設置したライトが灯り、きらきらと輝く。太陽電池で稼働する自動読経機が経を読み上げ、動物たちの魂を鎮める。

 ある調査研究機関の「2014~2019年中国ペット市場調査研究予測報告」によると、中国のペットの数は15年には約1億匹に達し、1年間に約100万匹のペットが死んでいるという。

「劉大壮」が眠る「ペット天国」の墓地の価格は、2000~5000元(約3万4800~8万7000円)。棺桶や墓碑、台座などは含まれない。墓碑は1200元(約2万1000円)〜1600元(約2万8000円)。セメントの台座は100元(約1700円)で、大理石だと1600元(約2万8000円)もする。火葬費用はペットの体重によって変わり、10キロ以下であれば1000元(約1万7000円)だという。

■出生率の低下とペットの流行

 飼い主とペットの関係の研究者によると、中国では出生率の低下で少子化減少が起こるのとほぼ同時に、ペットビジネスが盛んになってきているという。経済成長や都市化に加え、高齢化も進んだことで、中国人にとってペットがいる生活というのがライフスタイルになりつつあるという報告もある。

 国立台北教育大学(National Taipei University of Education)心理・カウンセリング学のある論文によると、これまでペットは家の外で門番として飼われていたが、近年では室内で飼われることが多くなり、癒やしを求めて「伴侶」として飼い始める人が増えているという。

 ペットたちが眠る「ペット天国」では現在、北京市の条例により土葬は禁止され、火葬が義務付けられている。ペットの葬式に関して成熟しているフランスやシンガポールなどでも国の法律で火葬が必須だと定められている。

 また、日本のペット専用火葬場では、告別式や納骨などのサービスが提供される場所もあり、ペット専用の寺などもあるという。

「ペット天国」の借地期限は約30年。30年後のことを考慮している人はまだ少ないという。馬さんは「その時にはもう私もこの世にいないだろう」と話した。(c)東方新報/AFPBB News