【4月14日 AFP】4年に1度、五輪の数か月前になると毎回、ここカリフォルニア(California)州では恒例行事が行われる。米代表チームのメディア向けフォトセッションだ。構図はいつも同じ。星条旗の前で笑顔を見せるアスリートたちの姿だ。

 だから、この恒例行事で独自性を出すことは難しい。それでも2012年、私の同僚のジョー・クラマー(Joe Klamar)は新しいアプローチを見せた。そして4年後の今回、私は同じジレンマに直面している。みんな同じ写真を撮るなかで、どうやって差別化するか? 最初はインスタグラム(Instagram)を考えたが、その後、ポラロイドを思い出した。

(c)AFP/Valerie Macon

 ポラロイドを覚えているだろうか?若い世代にとっては遠い過去の遺物かもしれない。デジタルカメラが登場する以前、撮影後すぐに写真を確認することができた唯一のカメラだ。最後にポラロイドカメラが製造されたのは、10年近く前の2007年だ。かつてポラロイドは撮影時の光の加減をチェックするために、本番のカメラで撮影する前によく使われた。「チームUSA」の撮影時、私はこれと真逆のことをしようと思った。最新鋭のデジタルカメラで採光を確認してから、古いポラロイドで本番を撮影するのだ。

 その特別な撮影に臨むために、私はプロ仕様のポラロイドカメラ、70年代から80年代製の「600-SE」を借りてきた。次の問題はフィルムだ。ポラロイド用の有名な「FP-100C」を製造していた富士フイルム(Fujifilm)は、数週間前に生産終了を発表していた。以来、そのフィルムの値段は高騰し、ネットオークションのイーベイ(eBay)では1パックが数日前には8ドル(約880円)で売られていたのに29ドル(約3200円)に上昇していた。

 私は引き出しをくまなく探して、10枚入りのその貴重なフィルム1箱を見つけた。加えて、あと5箱購入することにした。そうすれば、光を調整しながら米代表選手の写真を60枚撮ることができる。

ライアン・ロクテ。(c)AFP/Valerie Macon

 撮影はロサンゼルス(Los Angeles)のビバリー・ヒルトン・ホテル(Beverly Hilton Hotel)の巨大な宴会場で行われた。会場内は7~8区画に仕切られ、3メートル四方の急ごしらえのフォトスタジオが作られた。選手たちは順にスタジオからスタジオへと移動して被写体になる。工場の製造ラインで見られる流れ作業のような感じだ。

■「それは何?」

 私のスタジオに来た選手たちは、古い時代のカメラを見て少し驚いていた。「それは何?」と、信じられないといった感じで聞いてきた。私は自分のアイデアを説明した。まずはポラロイドでスナップショットを1枚撮り、それからデジタルカメラで普通のポートレートを数枚、最後にポラロイドで撮った写真にゴールドのペンでサインしてもらう(サインは担当エディター、ムラデン・アントノフ(Mladen Antonov)のアイデアだ)。選手たちはみんな、私のアイデアをとても気に入ってくれた。地獄のようなポージングの流れ作業の間に、少しばかりの楽しみを見つけて喜んでくれたようだ。私はあまり身長が高くないために、脚立に上がって撮影したが、それもまた彼らは楽しかったようだ。私のスタジオには常にリラックスした陽気な雰囲気が漂っていた。

作業中。(c)AFP/Robyn Beck

 私は最初、星条旗を背景に使いたくはなかった。みんながやっているし、もっと自分だけのオリジナル性がほしかった。だが、AFPの米国のクライアントたちにとって、写真の中に米国旗が写っているのは重要なこと。選手たちも国旗がないなかでポーズを取りたがらない。星条旗は彼らに自信を与え、自分が何者なのかを明確にする。欧州人には理解しにくいことだが、米国人は国旗に対して強い思いを抱いている。だから私は星条旗を使うことにした。

 選手たちが私のスタジオに入ってきたら、私はまずポラロイドで最初の1枚を撮り、次にデジタルカメラで数枚撮影した。私がデジタルカメラで撮っている最中に、手伝いに来てくれていた友人がポラロイドの写真を現像する作業をした。数分で写真が浮かび上がってくる。一通り終わると、選手にポラロイドの写真を見せてサインをしてもらい、撮影終了だ。

ドネル・ウィッテンバーグ。(c)AFP/Valerie Macon

 ポラロイドを使うこと自体、簡単ではなかった。レンズがあまり開かないため、デジタルカメラで撮影した写真よりも暗めになる。レンズの動きも速くなく、フォーカスが難しい。瞬時に複数の写真を撮影できる現代のカメラに慣れている選手たちは、じっとしていてくれない。そんな選手たちに焦点を合わせるのが、最も手こずったことだ。つまり、私は古代のカメラでシャッターを切る度、すべてを一からやり直す必要があった。加えて、フラッシュもいつもカメラの動きにぴったり合うとは限らなかったし、一度に2枚の写真が出てくることもあった。撮影が進むにつれ、私はどんどん減っていくフィルムを焦りながら見ていた。

■想定外の出来事

 ポラロイドで撮った写真にはサプライズもついてまわった。たとえば、写真乳剤の跡が残ってしまったもの。必ずしもダメな写真というわけではないが、AFPのクライアントには受けないだろう。最初、ポラロイド写真をそのままスキャンしてみたが、奥行きのないフラットな仕上がりになってしまった。そこで私はオフィスに小さなスタジオを作り、ポラロイドで撮った写真をさらに撮影するという作業を行った。

シャーロット・ドラリー。(c)AFP/Valerie Macon

 もう一度やり直せるなら、私はいくつか違うやり方をするだろう。まず今回、「スター選手」にばかり集中してしまった。水球や乗馬などマイナーなスポーツのあまり知られていない選手を撮ることにも意義があるはずだ。でも60枚という制限のなかで、しかもそのうち5枚は照明のチェックに使ったので、私はつらい決断を下すしかなかった…。(c)AFP/Valerie Macon

このコラムは、ロサンゼルスを拠点とするAFPのフォトグラファー、バレリー・メーコン(Valerie Macon)がロラン・ドクルソン(Roland de Courson)と共同執筆、ヤナ・ドゥルギ(Yana Dlugy)が英訳し、2016年3月23日に配信された英文記事を日本語に翻訳したものです。

キャンディス・パーカー。(c)AFP/Valerie Macon

マット・グレイバーズ。(c)AFP/Valerie Macon
アリソン・フェリックス。(c)AFP/Valerie Macon

ギャビー・ダグラス。(c)AFP/Valerie Macon
ジェイコブ・ダルトン。(c)AFP/Valerie Macon
イブティハージ・ムハンマド。(c)AFP/Valerie Macon
マギー・シュテフェンス。(c)AFP/Valerie Macon
仕事中のアーティスト。(c)AFP/Robyn Beck