■難民となった楽器職人

 国境を挟んだレバノンでは、ハリド・ハラビ(Khaled Halabi)さん(31)は、ウードと呼ばれる洋なし形の木製弦楽器を手作業で製作している。

 ハラビさんは、ウード作りを代々受け継いできた有名な職人の家に生まれた。エジプトの伝説的歌手、ウム・クルスーム(Umm Kulthum)のために祖父が作ったというウードは、首都カイロ(Cairo)で個人収蔵のコレクションの一部として保管されている。

 しかしハラビさんのキャリアは、先人たちとは全く違う方向へ向かっている。「ダマスカス近くにあったうちの工場では、月に50~70本のウードを製作していた」「だが内戦が始まり、工場に通えなくなってしまった」と、ハラビさんはAFPに語った。

 ハラビさんは2014年、妻と娘と共にレバノンの首都ベイルート(Beirut)へ避難した。レバノンには、ハラビさんのように安全な場所を求めて国境を越えたシリア人が100万人以上いる。

 彼は現在、ビジネスパートナーのハリルさんと一緒に月に10本のウードを作るのが精一杯だ。これでは何とか生活費を賄える程度の収入にしかならない。

「誰だって母国に帰りたいに決まっている。シリアの将来がどうなるかほんの少しでも分かったなら、すぐにでも飛んで帰るだろう」

(c)AFP/Karam Al-Masri with Maher Al-Mounes in Damascus and Layal Abou Rahal in Beirut