【11月28日 CNS】タクシーを呼ぶと、車は来るが運転手は乗っていない。乗客が乗り込むとハンドルが自動で回り、車は自然に交通の流れへと合流する——。まるでSFのような光景が、いま北京市、上海市、深セン市(Shenzhen)、広州市(Guangzhou)、武漢市(Wuhan)など複数の中国都市の特定エリアで現実となっている。

2022年に、百度(Baidu)傘下の無人運転タクシー(ロボタクシー)ブランド「蘿蔔快跑(Apollo Go)」が武漢での運行を開始し注目を集めて以来、中国では「完全無人」の自動運転サービスの商業化が加速している。多くの市民は当初の「不安と好奇」から、「新しい技術を試してみたい」という積極的な利用者へと変わりつつある。

11月に開催された第15回全国運動会(全運会)では、自動運転が再び話題になった。大会史上初めて、自動運転車が聖火リレーに参加したのだ。この車両には「6大カテゴリー・34基のセンサー」が搭載され、車体360度の死角と最遠650メートルの範囲をカバーし、安定した走行で任務をこなした。また、大会期間中は選手・関係者・市民向けのシャトルサービスも担い、主要会場、メディアセンター、交通拠点などを結んだ。

SNSでは「聖火車と同じモデルの無人車に乗れた!」と興奮をシェアする投稿が相次ぎ、「走行が滑らか」「まるでベテランドライバー」「遅れ知らずで安心」といった評価が並んだ。これをきっかけに、自動運転企業「小馬智行(Pony.ai)」にも注目が集まり、ロボタクシー試乗レビューの投稿が急増している。「蘿蔔快跑」と「小馬智行科技(Pony.ai)」はどちらも北京・亦荘(北京経済技術開発区)を起点に成長したブランドであり、ここでは複数企業の無人車が公道でテストや商業運行を進めている。

公開情報によれば、北京亦荘は世界初の「車・道路・クラウド」一体型自動運転モデルエリアで、2020年から北京市の高度自動運転デモ区として先行試験が進んできた。現在は600平方キロのスマート道路網と都市専用ネットワークが整備され、「賢いクルマ・スマートな道路・強力なクラウド」が協働する仕組みが構築されている。これまでに30社以上、1000台超の自動運転車にテスト環境を提供し、累計走行距離は4000万キロを突破した。欧州中央銀行(ECB)のクリスティーヌ・ラガルド(Christine Lagarde)をはじめ、海外要人も試乗し、中国の自動運転技術を称賛している。

自動運転の普及状況を確かめるため、中国新聞社(CNS)の記者と友人は11月のある週末に北京亦荘を訪れた。広い道路には「無人化テスト」と書かれたロボタクシーが次々と走り、人間の運転する車と混在して交通流に溶け込んでいた。小馬智行のアプリで車を呼ぶと、数分で聖火リレーと同じ仕様の新型車(北汽極狐の最新自動運転モデル)に乗ることができた。Bluetoothで自動ドアが開き、車内の画面で「開始」をタップすると走行開始。ハンドルは自動で回転し、ディスプレイには周囲の状況がリアルタイムで表示される。

2.9キロの行程は約9分。左折3回、車線変更4回、信号通過5回、障害物回避2回をこなし、加減速は滑らかで速度は時速50キロ前後を維持。割引後の料金はわずか0.1元(約2円)で、「かなり快適」「想像以上」と感じた。

運転歴10年の蘇(Su)さんは、家族と公園に行くついでにロボタクシーを「観光体験」として試したという。旧モデルと新モデルをそれぞれ利用し、「旧型は動きがやや不安定で判断が遅い。新型は滑らかで反応が早い。点数をつけるなら7点と9点くらいかな」と語った。彼は「中心部より交通が複雑でない分、亦荘は自動運転に向いている」と分析する。

ここ半月で複数回利用した何(He)さんは、「料金は普通の配車アプリの3分の1程度でお得」と話す。また、後部座席には緊急時用の赤いSOSボタンがあり、「より安心して利用できる」と感じたという。

安全性は開発企業の最大の注目点である。蘿蔔快跑は「人間の運転手より10倍以上安全」を掲げ、小馬智行も冗長設計を徹底している。しかし、完全ではない。ガードレール接触や軽微な接触事故、標識への衝突などが報告されているほか、「青信号でも動かない」「遠回りする」「大雨で利用できない」などの不満もSNSに投稿され、改善を求める声もある。

それでもSNSには、「一度乗ってみたい」「武漢観光の定番は『無人車で街を巡る』」「蘿蔔快跑は世界で2秒ごとに新規注文」など、利用体験や市場拡大を伝える投稿が増えている。こうした記録の積み重ねは、自動運転タクシーが技術革新と実証を重ねながら、中国の「新しいモビリティ文化」として社会に根づきつつあることを示している。(c)CNS/JCM/AFPBB News