■「クリーン」な石

 人工ダイヤは、1950年代初期に初めて製造された。だが、技術の飛躍によって商業レベルの取引が可能となったのは、ここ10年以内のことだ。

 ラボダイヤの製造業者は天然ダイヤに比べてカーボンコストが低いと主張するが、製造工程で大量のエネルギーを消費するため、環境により優しいとは言えないとの見方も強い。

 一方、パテルさんは、他社では化石燃料由来の電気を使っているが、自社では地産の太陽光エネルギーを利用していると話す。

 また、ラボダイヤでは「紛争ダイヤモンド」のような問題はない。

 天然ダイヤの取引商は、紛争地域から産出されるダイヤモンドを流通させないようにする取り組み「キンバリープロセス(Kimberley Process)」によって国際証明書が発行されていると主張するが、人工ダイヤメーカーはそうした問題はそもそも皆無だと口をそろえる。

 こうした環境や人権への配慮を背景に、婚約指輪にラボダイヤが選ばれるケースも増えている。

 業界アナリストのエダン・ゴラン(Edahn Golan)氏によると、天然宝石の取引額で米国で2023年2月に販売された婚約指輪の17%がラボダイヤを採用していた。現在では36%程度になっていると同氏は推計する。

■天然ダイヤ市場に逆風

 インドの宝石宝飾輸出促進評議会(GJEPC)によると、23年4~10月に輸出されたラボダイヤは前年同期比42%増の計404万カラットだった。

 一方、天然ダイヤの取扱業者は同時期、計1130万カラットの減少を報告した。

 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)期には、富裕層がロックダウン中の生活を彩ろうと天然ダイヤの取引額が増加したが、経済活動が以前の水準へと回復するにつれ需要が弱まり、大手業者は高価な宝飾品の在庫を過剰に抱え込んだ。

 ダイヤモンド産業最大手デビアス(De Beers)が認定する原石バイヤー(サイトホルダー)の一つ「D・ナビンチャンドラ・エクスポーツ(D.Navinchandra Exports)」の取締役の一人、アジェシュ・メフタ(Ajesh Mehta)氏は、この時期の落ち込みは過去30年で最悪だったと語る。

 その背景には、ラボダイヤという強力なライバルの存在以外にも、米中経済の鈍化やダイヤモンドの供給過剰、ロシア産ダイヤ原石に対する制裁といった要因があった。

 こうした中、GJEPCは昨年10月、ダイヤモンド原石輸入の一時停止勧告を業界に向けて発信した。

 インドのサイトホルダーのうち少なくとも5社はAFPに対し、デビアスが昨年、最初の原石販売会(サイト)で販売価格の見直しを行ったと述べた。さまざまなカテゴリーの原石で、10~25%の価格引き下げがあったという。これは米国のホリデーシーズン後、バイヤーが在庫を補充するタイミングだった。