【12月29日 AFP】ケニアのスラム街にある自宅の狭いリビングルームで、ガゼルのように何度も大きく跳躍するブラビアン・ミセさん(13)。ロシア人作曲家ピョートル・チャイコフスキー(Pyotr Tchaikovsky)のバレエ「くるみ割り人形(Nutcracker)」への出演が決まった約100人の子どものうちの一人だ。

「踊ることが大好き。とても美しいから」と瞳を輝かせるミセさん。演目のくるみ割り人形については「実際に踊るまで知らなかった」と言う。

 同作では、少女がクリスマス・プレゼントにもらったくるみ割り人形とネズミの大群と戦い、最終的にネズミの王を倒し、くるみ割り人形が治める国に少女を招待するという夢物語が展開する。

 ミセさんがバレエを習っているのは、貧困層の子供たちにレッスンを提供するNGO「ダンス・センター・ケニア(Dance Centre Kenya )」。米ニューヨークにあるバレエの名門校「スクール・オブ・アメリカン・バレエ(School of American Ballet)」で学んだクーパー・ラスト(Cooper Rust)氏がディレクターを務める。

「バレエは一部の人だけのものではないと世界に示すことが重要。バレエで大切になるのは、技術や才能、情熱。社会経済的な側面ではない」とラスト氏は述べる。

 ケニアのダンスシーンは盛んだが、プロのバレエ団は存在していない。

 ラスト氏は「こうした状況は直に終わる」と強調する。しかし、資金調達など越えなければならない課題は決して少なくない。

 くるみ割り人形の公演は11月末から12月初旬にかけてナイロビ国立劇場で行われた。ダンスセンターの7~17歳の子どもたちも登場し、オーケストラによる生演奏をバックに、約2時間に及ぶステージで観客を魅了した。ミセさんも達成感を味わった。

 ミセさんは、首都ナイロビのスラム街、クウィンダ(Kuwinda)に両親やきょうだいと住んでいる。ここでは約50人の子どもたちが、バレエを続けるための助成を受けている。こうした支援がなければ、ダンス用品の購入費や練習場に通うための交通費を確保することは到底不可能だ。

 息子が踊る姿を温かく見守っていた母親のレヘマさんは、「貧しい境遇の子どもたちが成功するためには人一倍の頑張りが必要」とAFP取材班に述べ、「ミセをとても誇りに思っている。きっと成功する」と続けた。

 本人も「いつかはプロのダンサーになれる」と楽観的だ。しかし、スラム街の若いダンサーたちにとって、その道のりは特に険しさを伴う。