【12月26日 東方新報】中国には「農民工」と呼ばれる農村からの出稼ぎ労働者が3億人近くいる。年末年始になると例年、彼らの賃金問題がクローズアップされる。春節(旧正月、Lunar New Year)前に大量の賃金未払い問題が起きるためだ。

 建設業界などでは一般的に、雇い主と農民工は年間契約を結ぶ。農民工は簡素な宿舎と食事を与えられて働き、春節前に1年分の給与をまとめて受け取ると、家族の待つ故郷へ帰る。だが、経営状態が悪化した業者が賃金を払わないケースが後を絶たない。2019年には全国で約83万人の労働者の賃金79億5000万元(約1429億円)が未払いとなり、その多くが春節前に集中していた。このため春節前になると、賃金未払いで故郷に帰れなくなった農民工が強盗事件などを起こし、さらには自暴自棄になって通り魔事件を起こすことさえある。

 対策を取るため中国政府は2019年12月、「出稼ぎ農民賃金支払い保障条例」を可決。各企業に賃金支払い業務の責任者を置くよう求め、地方自治体の監督責任も明確にした。また、人力資源・社会保障省は今年11月、建設業者に対し、農民工の賃金のための専用銀行口座を作り、資金を積み立てるよう指示している。

 今年は、出稼ぎ労働者以外でも賃金未払い問題が懸念されている。政府が7月に学習塾の経営を実質禁止する方針を打ち出し、学習塾の多くの講師や職員が職を失っているためだ。また、不動産業界の低迷が深刻化しており、社員への給与滞納問題が起きつつある。政府と各自治体が「賃金滞納撲滅・冬の特別行動」を始めている中、四川省(Sichuan)が「教育産業で深刻な影響を受けた企業の包括的調査」、天津市(Tianjin)が「不動産開発企業の滞納防止」を掲げるなど、各地で重点対象項目としている。

 政府はさらに来年1月1日から、賃金を受け取れなかった農民工が集団で事件を起こしたり、極端な事件を起こしたりした場合、賃金を払わなかった企業と責任者をブラックリストに登録して懲戒処分する制度を施行する。来年2月4日からは北京冬季五輪が行われる。その直前に賃金未払い問題で社会を騒がす事件が起きれば、五輪が安全に行われるか国際的な不安を与えかねない。コロナ禍で行われる五輪を成功裏に収めたい中国政府にとって、課題を増やさないためにも賃金未払い問題を解消しようと懸命となっている。(c)東方新報/AFPBB News