【7月24日 東方新報】中国で今、約50万人といわれる「事実上の孤児」への支援策が求められている。

「事実上の孤児」は、両親もしくは片方の親が健在だが離れ離れとなり、経済的支援も全く受けられていない子どもを指す。民政省の昨年の調査では、両親ともに重度の障害や病気があって施設に入所・入院していたり、犯罪や薬物依存のため刑務所や治療施設に収容されていたりして、置き去りにされている子どもが約22万人に上る。また、父母のどちらかが死亡または失踪し、もう一人が障害・重病、犯罪・薬物依存などのため別々に暮らしている子どもが約28万人に達している。親が出稼ぎに行ってそのまま連絡が途絶えるというケースもある。

「事実上の孤児」たちは通常、両親に代わって祖父母が保護者になることが多い。だが、高齢の祖父母は健康や体力面の問題で監督義務をしっかり果たすことが難しい面がある。親戚に預けても、子どもを誠心・誠意世話できないケースもある。そして当の子どもたちは貧困による苦しみだけでなく、その境遇から臆病や卑屈といった性格になりがちで、人とのコミュニケーションが苦手になるなど、心の成長にも悪影響が出ている。

 こうした実態を改善するため、民政省、公安省、財政省、中国共産主義青年団など12機関は新たな政策として「事実上養育者のいない子どもへの支援を一層強化する取り組みに関する意見」をまとめ、2020年1月1日から実施することを決定した。高暁兵(Gao Xiaobing)・民政省次官は今月10日の記者会見で、「この政策は事実上養育者のいない全ての子どもたちを対象に実行する必要がある。見捨てられる子どもが一人でもいてはならない」と力を込めた。

 政府はこれまで、最低生活保障や臨時支援、貧困世帯の登録やカードの発行などの方法を通じて、子どもたちを支援してきた。しかし、民政省児童福祉司の郭玉強(Guo Yuqiang)司長は「こうした政策は実施過程でうまく作用せず、保障水準は比較的低かった」と不十分であったことを認めた。実態として、現場の具体的支援策は地方の行政に委ねられており、人材や知識の不足、行政の熱意の差などにより、支援が浸透していたとは言い難い。また、役人が対策費用を横領して私腹を肥やしたり、政府が重点を置く事業に費用を横流し、自分の「成績」を上げるような行為も横行していた。

 行政の力不足を補うように、事実上の孤児をボランティアで養育する民間団体・篤志家も各地にいる。例えば、北京郊外では、片方の親がもう片方の親を殺害し刑務所に収容されるなど、受刑者の子どもたちが暮らすNGOの施設「太陽村」がある。国内外の寄付や施設内の農業収入で運営し、サッカー元日本代表の中田英寿(Hidetoshi Nakata)さんも慰問に訪れている。江西省(Jiangxi)分宜県(Fenyi)では、元小学校校長の黄梅生(Huang Meisheng)さんが2008年に「徳仁苑」を設立。事実上の孤児たちと一緒に寝泊まりし、これまでに250人以上の孤児を育ててきた。

 こうした地域による支援のばらつきや、民間頼みの実態を脱却するため、民政省など関係機関が一体となって新たな政策を打ち出した。政策では、政府の直接支援策を強化するとともに、共産主義青年団や婦女連合会などの専門組織や青少年担当ソーシャルワーカーが、事実上の孤児を心理面でケアしていく。さらに各地の行政の児童監督指導員や児童主任を指導して、対象家庭への訪問を強化し、生活や学習の支援、臨時の後見人を置くなどのサポートをする。子どもの権利が侵害されている場合は司法当局が連携して法的手段をとる。さらにストリートチルドレンの救助と保護に力を入れ、養子(里子)縁組の取り組みを図る。(c)東方新報/AFPBB News