【7月6日 東方新報】中国の全国人民代表大会(国会に相当)常務委員会で、複数の委員から結婚年齢の引き下げが提案されたことから、国内で議論が巻き起こっている。少子高齢化を食い止める打開策としたい考えだが、市民や専門家からは「現実を見ていない」という声が上がっている。

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 中国の婚姻法では、結婚できる年齢は男性は22歳から、女性は20歳からと定められている。全人代常務委の王超英委員は「多くの国では結婚可能年齢はわが国より低い。昨今の人口動勢を考慮して、年齢を引き下げるべきではないか」と提起した。蘇軍委員も「結婚年齢を男女とも18歳にすれば、出生人口の減少と高齢化を食い止める効果が期待できる」と呼びかけた。

 中国では2006~12年の期間、結婚する人の年齢は20~24歳の割合が37%を占め、最も高かった。しかし13年以降は、25~29歳の割合が最多となった。民政省によると、婚姻率は13年以降は減少する一方、離婚率は03年から上昇。「晩婚化」だけでなく、「婚姻率の低下」「離婚率の増加」という問題に直面している。

 しかし、結婚年齢引き下げ案に対する一般の反応は冷ややかだ。

 日刊紙「新京報(Beijing News)」がインターネットで結婚年齢引き下げについてアンケートを行ったところ、回答者46万3000人のうち「賛成」は9万8000人にとどまり、「賛成しない」が30万2000人、「どちらとも言えない」が6万3000人、「賛成しない」が65%を占めた。

 専門家も「経済成長が続けば初婚年齢が遅くなるのは世界の普遍的現象だ」と提案に否定的だ。中国人民大学のある教授は「こうした提案は何の効果も得られないだろう。わが国では高学歴化が進み、18歳の大多数は大学に入ったばかりだ。結婚年齢を修正して出生率を調整できた国は世界に存在しない」と指摘する。

 中国人口・発展研究センター副主任の賀丹氏は「婚姻率や出生率の低下は、都市化の進展による影響が大きい。法律をかえても効果は期待できない。むしろ、未成熟な若い年齢で結婚しても、離婚率が高くなるだけではないか。少子高齢化の問題は社会的、経済的要素を考えないといけない」と強調する。

 中国では2014年から、国際基準でみた労働力人口(15~64歳)が減少を始めた。税金を納める若年人口が多く、社会保障が必要な高齢人口が少ない「人口ボーナス」期は過ぎ去った。中国政府は1979年から始めた「一人っ子政策」を改め、2016年からすべての夫婦が二人まで子どもをもうけられるよう国策を大転換した。しかしそれでも、出生人口の増加は期待したほどではない。そんな背景から、結婚年齢の引き下げ案が浮上した。

 だが、専門家が指摘するように少子化は社会的、経済的問題が大きい。

 長年の一人っ子政策により、両親・祖父母たちはたった一人の子ども・孫に優秀な学校、企業に入ってもらおうと、進学塾に通わせ、海外留学に行かせ、並行してさまざまな習い事をさせ、財産の大半を子どもに費やすライフスタイルが常識となってきた。日本以上の激しい受験社会、競争社会の中、二人の子どもを養うのは相当の財力がある家庭でないと難しい。

 また、一人っ子政策が続き、農村部を中心に労働力となる男児出産が優先された結果、全国の男性人口は女性より数千万人多くなり、男性の未婚率を押し上げている。一方、都市部では高学歴、高収入の女性は自立した生活を送るようになり、結婚相手の男性の条件も高くなっている。女性は20代後半、男性は30代前半の結婚適齢期を過ぎても未婚だと「剰男」「剰女」(残った男女の意味)と呼ばれるようになった。

 日本をはじめ先進国の多くが苦闘している少子高齢化問題。中国も世界第2位の経済大国に飛躍を遂げた結果、同じ問題に直面している。(c)東方新報/AFPBB News