アリババでの経験で、楊氏は二つのことを学んだ。「問題を解決すること、そして価値を創造すること、これこそがチームの使命であり目標だと。起業というものは、金銭と名誉が唯一の目的なのではなく、より多くの人のため、社会のために価値をもたらすことが重要で、仮にいま自分が失敗したとしても、将来また別の人が自分の軌跡をたどって成功するだろう。自分が起業することにはそういう意義があるのだ。これこそが自分が『ボルト猫』を始めた理由だ」

 たとえ仕事がどんなに忙しくとも、楊氏はなるべく時間を見つけ、茶を立てたり、書を書いたりして楽しむようにしている。従業員も同じように、生活を楽しむことを知っている1990年代生まれの「90後」世代で、残業と徹夜しか知らないサラリーマンではない。

 起業というものは常に苦しいもののようだ。苦しくない起業は起業とは言わないのだろうか?

「起業というものは本来楽しいもので、楽しくなければなぜ起業なんぞをするのか?」

■社長より年下の社員、一人だけ

 60数人の組織で、平均年齢は30歳以下、24歳の楊氏より年下は、22歳の従業員が一人だけ。

「楊社長」のような呼び方は、この会社の従業員から言わせればありえない。みな、直接下の名前「剣南」と呼ぶ。「たまに南哥(南あにき)と呼ばれることはあるけれど、ほとんどは『剣南』と呼びますよ」

 楊氏の執務室は明るく、壁には水墨画がかけてある。ただ、この部屋は正確には商談室で、楊氏は大部屋の一角で仕事をしている。

 同社には、中国だけでなく世界で有名な企業や、国営の電力会社を辞めて来た人もいる。「みな、価値観に賛同して集まってきた人ばかりだ」

 新入社員の最終面接は、楊氏が担当だ。例外なく、まず楊氏自身の経歴を分かち合うことから始める。そして、書棚から2冊の本『何為人、何謂正确?(訳:人とは何か、正しさとは何か?)』『基業常青(邦題:ビジョナリー・カンパニー─時代を超える生存の原則)』を取り出して贈る。読み終わったら感想を求め、心得や価値観が一致すれば合格だ。(c)東方新報/AFPBB News