【3月31日 AFP】米国の医師チームは30日、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染したドナーから、HIV陽性患者への肝臓移植を世界で初めて実施したと発表した。HIV感染臓器の移植手術に対する禁止措置が米国で解除されてから3年後の実施となった。

 米ジョンズ・ホプキンス大学(Johns Hopkins University)の医師チームによると、今回の手術では、死亡した女性ドナーの肝臓が、AIDS(エイズ、後天性免疫不全症候群)の原因となるHIVに20年以上前に感染した患者に移植されたという。

 同じドナーの腎臓も、別の患者への移植に提供された。

 ジョンズホプキンス・メディシン(Johns Hopkins Medicine)のドリー・セゲフ(Dorry Segev)教授(外科)は記者会見で、「われわれは数週間前、世界初のHIV患者間の肝臓移植と、米国初のHIV患者間の腎臓移植を実施した」と述べた。

 今回と同様のHIV患者間の腎臓移植手術は、南アフリカですでに実施されている。

「これはわれわれにとって、非常に胸躍る日だ」とセゲフ教授は続ける。「だが、これは本当に、単なる始まりにすぎない」

 医療チームによると、移植を受けた患者2人は術後、いずれも順調に回復し、腎臓移植の患者はすでに退院したという。

 ドナーの氏名は公表されなかったが、ドナーの家族は声明で、正義のために闘った「とても陽気な、愛すべき人」だとドナーの女性について述べた。

「彼女は娘であり、母であり、おばであり、最良の友であり、きょうだいだった」。「弱い立場の人々を助けながら、この世界から旅立つことができた。こうした人々のために、彼女は懸命に闘ってきた」のだという。

■移植待機中に数千人が死亡

 米国では、HIV陽性患者間の臓器移植に関するHOPE(HIV Organ Policy Equity)法が2013年に米議会を通過し、バラク・オバマ(Barack Obama)米大統領が署名して成立したが、それまではHIVに感染したドナーの臓器を移植に使用することは法律で禁止されていた。

 米国の移植待機者リストには約12万2000人が名を連ねているが、毎年数千人が移植待機中に死亡している。

 セゲフ教授によると、移植に利用できるほど十分に健全な臓器を持つHIV陽性患者が毎年500~600人死亡していることが、自身の研究で判明しているという。

 これらの人々の臓器を、他のHIV患者のために利用できれば、年間約1000人の命を救える可能性があると同教授は指摘している。(c)AFP/Kerry SHERIDAN