【6月20日 AFP】短時間の激しい追跡で違法漁船に追いついたフィリピン警察の小型艇2隻がサメのように旋回し、その間に武装した奇襲部隊が漁船の船上へ懸垂下降する態勢に入る──最高時速83キロ、最新レーダーシステムを備えた全長10メートルの特殊巡視艇部隊は密漁者たちにとって悪い知らせだ。

 米国政府から資金と武装した小型艇、海軍特殊部隊「シールズ(SEALs)」による訓練の提供を受け、4年前に創設された巡視艇部隊の使命は、南シナ海(South China Sea)に細長く伸びるフィリピン最西部の要所、パラワン(Palawan)州沿岸約2000キロの巡視だ。

 人身売買摘発も任務の一つだが、巡視艇部隊が最も多くの時間とリソースを割いているのは、パラワン島周辺の希少な魚類や絶滅が危惧される野生生物の密猟を阻止することだ。しかし部隊にはアキレス腱もある。巡視艇は6隻しかなく、資金的に苦しい警察部隊の燃料予算にも限りがあるため、パラワン周辺、そして南シナ海へ出て適切な巡視活動を行うところまで至らないのだ。部隊を率いるブライアン・エスピノサ(Bryan Espinosa)警視正は「パトロールするには広過ぎるエリアだ」と語る。

 そうした限られた装備ながらもこの巡視艇部隊は、数百人の密漁者を逮捕してきた。その多くが中国やベトナムを含む外国人で、南シナ海を囲む外交関係に波紋を広げた。最近では今年5月に中国人の漁船乗組員9人を逮捕。漁船からは絶滅危惧種のタイマイ数百匹が発見され、その多くはすでに死んでいた。

 この逮捕劇は南シナ海の一部の領有権をめぐるフィリピンと中国の長年の対立を激化させた。中国政府は漁船乗組員の即時釈放を要求したが、フィリピン政府は頑として応じず、希少種の保護違反で裁判にかけると断言した。有罪になれば最大で20年の実刑が下される可能性もある。先週には乗組員のうち12人に、罪を認めて罰金を支払えば即時釈放するという司法取引が持ち掛けられた。

 巡視部隊の広報を務めるレイモンド・アベリャ(Raymond Abella)警視正は「彼ら(密漁者たち)は自分たちの国の領海を越えて漁を行っていることを完全に自覚している。漁船には全地球測位システム(GPS)が搭載されている」と語った。(c)AFP/Cecil MORELLA