■恐怖に変わった生活

 アナスタシアさんは、政治活動に関わったことは一度もない。ただ、自分の母語はウクライナ語で、ある朝起きたら新しい国籍になっていたという考えが好きでないだけだ。

 クリミア半島の住民200万人は、ウクライナ国籍を留保したいと特別に申請しない限り、1か月以内に全員、自動的にロシア国民になると告げられている。「ロシアのパスポートなんて欲しくない。ウクライナのパスポートを持ち続けたい。でも、もし適用外を申請したら自分の身に何が起こるか、それが怖い」とアナスタシアさんは語る。

 アナスタシアさんも友人たちも「公の場ではもう、ウクライナ語を話していない」という。「ここ(クリミア)に暮らすことが、恐ろしいことになってしまった。彼らは私たちのことを全員、過激派だと呼んでいる」

■消えた民主主義、家族にも亀裂

 ロシアとクリミア自治共和国の親ロシア派指導者たちは、ウクライナ暫定政府を国粋主義者が牛耳ってロシア語話者を差別していると主張し、ロシアのクリミア半島掌握を正当化している。しかしアナスタシアさんは言う。「差別って何? ロシア語を話す人たちに対して、ここ(クリミア)でそんなものがあったことはない。ロシアのテレビが言っているだけよ」