■フードコープが、民主政治を標榜する

「郊外の都市化が進み近郊農業は縮小しました。NY郊外もじゃがいもやカリフラワーを育てるのに絶好の土地でした。それが住宅にとってかわられ、農家がやっていけなくなりました。私たちはコープ設立当初から、近郊農家の存続を支援してきました」と、創立メンバーの一人であるドニー・ロットキン(Donnie Rotkin)は語る。

 また、フードコープのバイヤーを務めるアレン・ジンマーマン(Allen Zimmerman)は次のように語る。

「もし農薬の野菜を間違って食べても自分が死ぬとは思いませんが、農薬を使う大規模農業を支持したくないのです。農薬は大地を汚染し、動物や鳥を殺し、水や土を殺し、そこで働く人々も殺します」

 これはコープのあり方そのものにも反映されている。コープでは、月に一度運営会議が行われている。組合員であれば誰でも参加することができ、また運営する側も彼らの積極的な参加を求めている会議だ。そこでは、誰もが議題提案をすることができ、店の運営に対する様々なことが話しあわれる。仕入れる商品や労働環境、コープ内の水道にフィルターを付けるか否か、近隣の病院の閉鎖を阻止する運動にコープも参加すべき……など、議題は多岐にわたる。誰かが、店のやり方を決めるのではなく、組合員全員で考える。しかも、それは目の前の労働や商品だけではなく、コミュニティーのあり方そのものを問うような姿勢がしばしば見受けられるのだ。

 組合員の中には、これを「最も直接的な民主政治」と呼ぶ人もいる一方、「皆が、コープ全体の利益ではなく、個人的な議題の提案や議論をしているに過ぎない」と話す人もいる。

 そんな中で皆が互いの理解を尊重できるように、コープではふたつの委員会を設けている。ダイバーシティ(多様性)委員会では、組合員の理解を含めるため、彼らの中の班長のトレーニングやトラブルが起こった時の対処の仕方、様々な人が組合にかかわる中でそこに差別はないか、あるとしたらどんな差別意識が背景にあるのか……など、全員が同じルールのもとで平等に心地よく働けるようなコミュニティーであるためにはどうすればいいかが話し合われる。もうひとつ、懲罰委員会というものもあり、組合員同士のいざこざを解決するために設置されている。組合員はここに苦情を提出することができ、深刻な場合には組合員から選ばれた陪審員によって裁判で決着をつけることもあるという。

 ダイバーシティ委員の一人であるジェイ・スミス(Jay smith)は、これらについて次のように語る。「様々な会員がいますが、皆が理解し尊重できるよう委員会があります。積極的に無理解や違いによる不協に向き合うこと、それが大事だと思うのです」

 また、組合員のひとりは次のように述べている。「当事者が責任をとる、当事者以外誰も代理をしない。そういうシステムが自由と民主主義の社会で欲されているのです」