■客が従業員であり、従業員が客

 さて、ここではフードコープならではともいえる最大の特徴がある。この店で買い物をしたい人は、その権利を得るために、フードコープの組合員となって、店で無償労働の義務を果たさなければいけないという点だ。ルールとして、組合員は4週間に1度、2時間45分のあいだ、お店で働かなければいけない。仕事内容は、レジや商品のパック詰め、野菜の陳列、商品における成分の遺伝子組み換え有無の点検、併設されている託児所でのレクリエーションの企画……など様々。こうした労働を果たしさえすれば、組合員は安価にオーガニック食材を買うことが出来る。この労働義務のシステムをとることで、他のオーガニック系のチェーン店よりも値段は格段に安いという。

 適用されているルールは徹底していて、しかも易しくはない。例えば、家族のうち誰かが組合員であるとしても、家族の他の人が店で買い物をしたい場合には、その本人が必ず組合員となって労働をしなければならない。また、欠席をすると、ネット上に作られている組合員用の掲示板などを使って、呼びかけを行い、自分で組合員の中から代理の人を立てた上で、他の日に埋め合わせをするという仕組みになっているのだ。パークスロープは比較的富裕層が多い地域で、組合員の多くはそれほどお金に困っている人たちではないはず。

 しかし、そういう豊かでかつオーガニックな意識の高い人たちが喜んでここで働いている。もちろん、組合員の中には、スーパーで働いたことのない人や、レジを扱ったことのない人は大勢おり、それぞれの仕事が完璧にこなされているわけではない。むしろ組合員全員が、従事しなければいけないということは、経験や能力、あるいは身体的な個人差があることも大前提だ。さらには個々人の仕事に対する意識の差もあれば、仕事上のミスも少なくはない。

 それでもこの店では、全員に労働の義務を課すやり方を守り続けている。それはなぜなのか? 映画作家の中川伊希さんがこの店に密着したドキュメンタリー映画『パークスロープ・フードコープ(PARK SLOPE FOOD COOP)』を見ると、この店の哲学を知ることが出来る。

 ジョー・ホルツは、映画の中で次のように話す。
「我々にとって店を協同で所有するとは、共に働くことです。汗こそが資産で、金は資産ではない。働くことそのもので所有を体感し、実感します。所有者だと自覚するために、他者と労働を共にするのです。(中略)所有権を実感することが持続可能な組織の形成に繋がります。皆が組織を守ろうとするからです」

 彼は、フードコープの運営者でありながら、客である組合員に対しても、店を所有している意識を求めるという。組合員は、このシステムについてどう考えているのか。映画の中では様々な意見が口にされる。

「ここで買うと他の店で知らないが誰が育てた野菜は、もう買えない」
「スーパーでなんとなく購入するより親近感が増す」
「いろいろな人から今まで知らなかった商品を知ることが出来る」
「食べ物との関係が深まる」

 なかでも、組合員のとある男性は次のように話す。
「店で何か探すときに(スタッフの人に)『“僕たち”、〜〜を売ってますか?』と聞いている。この店を “僕ら”が持っていると認識していることの表れです。他のスーパーではありえません」
※参考資料2:http://www.hyenalife.org/en/episodes/62/
※参考資料3:http://www.hyenalife.org/en/episodes/70/
※参考資料4:http://www.hyenalife.org/ja/episodes/449/