■ジャンルを越え受け継がれるプロテストソング

 音楽批評家アン・パワーズ(Ann Powers)さんは、米公共ラジオ局NPRNational Public Radio)で、ブルース・スプリングスティーン(64)を、スタジアムを埋めながら政治的なテーマを歌うビッグネームとして挙げた。スプリングスティーンは、シーガーに捧げるアルバムを発表したこともあるが、今月発売の最新作「ハイ・ホープス(High Hopes)」では99年にアフリカ系移民を警官が殺害した事件を取り上げている。

 パワーズさんが若手で一押しというニューオーリンズ(New Orleans)のバンド、ハレイ・フォー・ザ・リフ・ラフ(Hurray for the Riff Raff)のボーカル、アリンダ・リー・セガラ(Alynda Lee Segarra)は、かつて路上でパフォーマンスをし、列車で各地を渡り歩いていた経歴の持ち主で、彼女の歌う曲には性的暴行を題材にしたものもある。

「政治的な音楽は、昔のように目に見えやすかったり、中心的な存在であったりはなくなってきていると思う。これは音楽全般に言えることで、その原因はインターネットだと思う」とパワーズさんは語る。

 ヒップホップ・シーンはその黎明期や、グランドマスター・フラッシュ・アンド・ザ・フューリアス・ファイヴ (Grandmaster Flash and the Furious Five)が82年にニューヨークの荒廃した公共集合住宅を舞台にツアーをした頃から、政治的姿勢を示してきた。

 昨年のMTVビデオ・ミュージック・アワード(MTV Video Music Awards)授賞式でカニエ・ウェスト(Kanye West)は、映画『それでも夜は明ける(12 Years a Slave)』 のスティーブ・マックイーン(Steve McQueen)監督が制作した暗い映像をバックに「ブラッド・オン・ザ・リーブス(Blood on the Leaves)」を歌い、奴隷制時代の負の遺産を想起させた。

 米フォーク音楽の遺産を所蔵し、シーガーも熱心に関わっていた米民俗センター(American Folklife Center)のスティーブン・ウィニック(Stephen Winick)所長はAFPの取材に対し「プロテスト音楽はこれからも強くあり続けるだろうし、それどころか弱まったことなどないと言えるだろう。ギターやバンジョーを持ったソロシンガーでなければプロテスト音楽とは言えない、というわけではないのだから」と述べた。(c)AFP/Robert MACPHERSON