【11月25日 senken h】すてきなブランドと製品が生まれるには必ず、それを支える職人技やモノ作りの現場がある。そんなファッションブランドのクラフトマンシップに迫る「アトリエのチカラ」。

 生地をカットして縫製するだけでは、現代の服作りは終わらない。その後に命を吹き込む作業――デザインの命運を握る製品加工と呼ばれるプロセス。この分野で日本を代表するファクトリーが都心にほど近い平塚にある。デニム加工のサーブは世界にその名を馳せる日本のデニムにおいても、とくに国内外から一目置かれる存在だ。

 製品の形や機能ではなく見栄えに関わる加工。サーブが手がけるのはモノ作りと言えども、デザインに直結する製造と創造の中間の仕事だ。生地や縫製なら「何cm切る」「どこを縫う」と仕様が示せるが、加工は数値などに頼れない。「ちょっとワイルド」「きれい目に」など、ブランドのデザイン性をくみ取って、具体化するのが仕事だ。

 サーブの加工はまず「デベロップ」(開発)から始まる。依頼される各ブランドのイメージを再現するのはどんな加工か、デザインを決め、タテ落ちや加工のサンプルを作る。それを決めてから実生産に入る。

 多くの工場が専用の大型機器で自動加工する中、サーブの基本は手作業。ヒゲ馬と呼ばれる、ジーンズの太もも部のタテ落ちやヒゲの形を再現した原版を作り、各デザインを一から起こす。それをジーンズの下に置き、ヤスリを使った手作業でデニムを磨き、アタリを出す。見た目には履きこんだ風合いが出ながら、破れたり切れたりすることのないギリギリのバランスを見極め、1本ずつ風合いを出す。ケズリが終わるとヘムやウエストなどをまた手作業で絞って専用の洗い加工機にかけ、全体を色落ち。洗い時間や薬品なども商品、気候によってレシピを変えて、常にたゆまぬ工夫を繰り返す。

 日本の職人技の美しさ。しかし価格の安いアジア生産品に追われ、美談だけではすまないシビアな現実もある。単なる生産ではなく、手仕事と感性が生み出すデザイン性を売る製造業。サーブからは、日本のモノ作りの未来が垣間見える。(c)senken h

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