【11月1日 senken h】最高の素材を最良に切ることが刺身という逸品に昇華するように、衣服も素材とカッティングの進化が最良のデザインを生む。「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」には、そんな手法でブランドを支えるパタンナーがいる。三宅デザイン事務所の山本幸子企画開発長は長年、制作チーフとしてアトリエを支えてきた。

 「服を作る時、素材は何と言っているのか、どうしたらその子(素材)の個性を一番美しく服にできるのかを考えます。付かず離れずくらいの生地がふわっと空気をはらむけど体にも沿う、そんなバランスがもっとも美しいと思う。素材の持ち味をそういうパターンに仕上げるのが仕事」と山本さん。

 30年前に入社した山本さんが88年に取り組んだのが裁断・縫製後にプリーツをかける服作り。プリーツを形状記憶させる温度を何度も試し、布目に対してどの様にかけるかで「空気をはらみながら伸縮自在でフィットする」パターンを形にしていく。軽くて着やすく扱いやすいと絶賛されたその服は進化を続け、93年「プリーツ プリーズ イッセイ ミヤケ」としてブランド化に携わる。

 次に手がけた「ミー イッセイ ミヤケ」でもさらなる挑戦が続く。全方向伸縮の素材をすべて後染め。色や染める温度によってそれぞれ違う縮み方を、すべて計算してパターンを起こす、誰も真似できない境地を開拓した。これも10年近く使い続ける定番生地と技法だ。

 「パタンナーはエンジニア。お客様に喜んでもらえる服を開発しなければ」と常に考えてきた。「ユニークだからと言って、どこに着て行くの? と思われるようなものでは成功していない。値段が(必要以上に)高くても意味がないし、残反を大量に出してもダメ。まだないモノ作りに挑みながら服としてはシンプルで、1着あると便利、と気軽に思ってもらえるデザイン・価格・機能にするのが責任」と話し、今も「前シーズンより必ず進化させた」服作りに挑み続ける。30年間変わらない作り手の矜持と着る人への誠意が、名品を生み出し続けている。 (c)senken h / text:加藤陽美

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イッセイ ミヤケ 公式サイト
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