【3月15日 AFP】原子力発電所の開発に力を入れてきたアジア各国の政府は、東北地方太平洋沖地震による日本の原発事故を受け、計画阻止の圧力に直面している――しかしそれでもなお、アジアでは、近い未来に数十基単位で原子炉が建設されることになるだろう。

■中国、インド、韓国を筆頭に勢いづく原子炉建設

 好調な経済をさらに勢いづけ、海外の化石燃料への依存度を弱めようとしているアジア諸国は近年、世界の「原子力ルネサンス」の先頭に立っている。原子力業界の国際団体、世界原子力協会(World Nuclear AssociationWNA)によれば、現在世界で建設中の原子炉62基のうち40基はアジアにある。中国だけでも建設中の原子炉は27基、進行中の計画は50基を超える。これに次ぐのはインドと韓国で、各5基が現在建設中、両国合わせて約25の計画がある。

 中国環境保護省の張力軍(Zhang Lijun)次官は前週末、日本の原発事故によって「原子力発電を発展させる中国の決意と計画が変わることはない」と断言した。韓国の李明博(イ・ミョンバク、Lee Myung-Bak)大統領も14日、「安全性と効率の面で、韓国の原子力発電所は世界でもトップレベル。中東の良きモデルになるだろう」と述べ、決意に揺るぎがないところを示した。ベトナム原子力研究所(Vietnam Nuclear Energy Institute)のヴォン・フー・タン(Vuong Huu Tan)所長も「日本の事故がベトナムの原子力開発計画に及ぼす影響はないだろう」と言い切った。

■計画見直す国も
 
 一方、シンガポール国際問題研究所(Singapore Institute of International Affairs)のサイモン・テイ(Simon Tay)所長は、日本の原発事故にはアジア各国の政府のみならず国民も注目しており、多くの環境団体は原子力の危険性を証明するきっかけにしたがっていると語る。「恐怖の要因は巨大だ。みんな、日本人はアジアで最も注意深い国民だと思っている。その日本が自国の原子炉を守れないとすれば、安全に対する不安はアジア地域で一気に高まる」

 インドのマンモハン・シン(Manmohan Singh)首相は14日、既存の原子炉20基の安全点検を命じた。先の中国の張次官も、日本の危機から「教訓」が得られるだろうとは認めている。

 原子力エネルギー計画を慎重に進めようとしていた国にとっては、日本の原発事故は十分、計画中止に値する理由となった。タイのアピシット・ウェチャチワ(Abhisit Vejjajiva)首相は13日、報道陣に「現在検討中ではあるが、タイに原発を建設するか否かの決断に、日本で起きたことは影響するだろう」と語った。2004年にインド洋大津波に襲われたタイは、原発6か所の暫定的な建設計画を持っている。

 タイの隣国マレーシアは原発2か所を計画中だが、建設着手は少なくとも10年先のことだとしており、エネルギー・環境技術・水資源相のピーター・チン(Peter Chin)氏は「徹底的な研究を行う時間は十分にある。そうした研究を、政府が国民に知らせずに隠れてすることはない」と強調した。

 オーストラリアでは日本の危機を引き金に、長年の反対論が息を吹き返し、与党・労働党のジュリア・ギラード(Julia Gillard)首相は、原子力を推進することはないと宣言した。

 しかし、日本の事態を注視しながらも、原発計画の推進の妨げにはならないという声はアジアで依然強い。バングラデシュ原子力委員会のファリッド・ウッディン・アーメッド(Farid Uddin Ahmed)委員長はAFPの取材に対し「わが国の原子炉は第3世代となる。最大級の地震にも耐えることができる」と答えた。(c)AFP/Karl Malakunas