【10月29日 AFP】「ハリー・ポッター(Harry Potter)は左派で、同シリーズはマーガレット・サッチャー(Margaret Thatcher)政権時代の英国に対する痛烈な非難だ」-同シリーズ第7巻のフランス語版が発売された26日、パリ大学で言語学を教えるフランス人哲学者ジャン=クロード・ミルネール(Jean-Claude Milner)氏が仏左派系紙リベラシオン(Liberation)に語った。

「ハリー・ポッターは始めからとても政治的な内容で、現在の英国について描いている。読み進めていくと、J・K・ローリング(J.K. Rowling)が他の英国の文化人のように、“サッチャー革命”というのは大失敗で、文化は神秘学として生き残るしかないと信じていることが分かる」とMilner氏は語った。

 ミルネール氏によれば、ハリーの魔法の世界、特にホグワーツ(Hogwarts)魔法学校というエリート校の設定は、小説中でマグル(Muggle)と呼ばれる非魔法使いに象徴された中流階級の勝利に対する抵抗を示しているという。

「マグルだったハリーの叔母夫婦は、同じ形の家が建ち並ぶ地域の小さな家で、サッチャー時代の英雄のように暮らしている。現代の英国は、サッチャーからブレア(Tony Blair)時代にかけて、マグルが権力を握った世界、つまり中流階級が思うままに行動することができる世界だと言うことができるだろう」

 『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人(Harry Potter and the Prisoner of Azkaban)』で、ハリーのおばさんが風船のように飛ばされるシーンは、サッチャー元首相に対する風刺だという。

「ここに『チャップリンの独裁者(The Great Dictator)』との類似点を見ることができる。そしてこのおばは、マージ(Marge)と呼ばれていることを忘れてはなりません。サッチャー前首相のことをほのめかしているのです」

 ミルネール氏にとって、ホグワーツ魔法学校は、グローバル化から文明を守ろうとする少数派の隠れ家のように見えるという。また、魔法の言葉にラテン語やギリシャ語が用いられていることは、コストパフォーマンスばかりを重視する現代の英国に対する一種の解毒剤だとみる。

「ホグワーツ魔法学校には、確かに不平等が存在します。しかし同時に、文化が皆に開放されているので、マグルの子どもであるハーマイオニー・グレンジャー(Hermione Granger)は、魔法使いの子どもであるドラコ・マルフォイ(Draco Malfoy)をしのぐことができるのです。よって、エリート主義者と見えるものは、マグルの誤った平等に相対する、真の平等なのです。この点において、ハリーはサッチャーとブレアの時代、そして米国的な生き方に対抗する”戦争機械”なのです」

「J・K・ローリングは、(文化などを)保存したいという考えを動機としている自由主義者だ。本当の魔法使いというのは、トニー・ブレアのスピンドクター(世論誘導係)ではなく、古いラテン語やギリシャ語を知っている人々なんだと言っているのです」

 邪悪な魔法使い、ヴォルデモート卿(Lord Voldemort)は、「スーパー・スピンドクター」だという。彼は文化だけでは世界を救えないという証明になっているとミルネール氏はいう。ヴォルデモート卿は「魂の高潔さ」に欠けているため、善良な魔法使いとは違っている。

「抑圧が物事に対する支配を意味している側に、マグルがいる。一方、知識がマグルの物質主義に対抗し、人々を支配する力にも道を開いている側にはホグワーツがあるのです。ヴォルデモート卿が求める絶対的な力、われわれが圧政と呼ぶこの権力はハリー・ポッターのテーマのひとつであり、チャールズ・ディケンズ(Charles Dickens)やジョージ・オーウェル(George Orwell)の時代から続く英国文学のテーマのひとつなのです」

 これまで英国の批評家の中には、小説の舞台を全寮制の学校や蒸気機関車という懐かしい時代に設定したローリングを保守派だと非難する者もいた。(c)AFP