【ロンドン/英国 30日 AFP】ヴィクトリア&アルバート博物館(Victoria and Albert Museum)では3月29日から6月22日まで『シュルレアル・シングス(Surreal Things)』と題された展覧会が開催されている。会場には、サルバドール・ダリ(Salvador Dali)やルネ・マグリット(Rene Magritte)らのアーティストによる300点もの作品が集結。ジャンルは家具、ファッション、ジュエリー、グラフィックなど多岐にわたる。

 さらに、テート・モダン(Tate Modern)では6月1日から9月9日までシュルレアリスムと映画をテーマにした『ダリ・アンド・フィルム(Dali And Film)』が開かれる。この展覧会は、ダリが脚本・出演をこなしたルイス・ブニュエル(Luis Bunuel)監督作品「アンダルシアの犬(Un Chien Andalou)」などが取り上げられる。

 イギリスの高級百貨店セルフリッジス(Selfridges)も各美術館と連動し、ジョン・ガリアーノ(Jhon Galliano)やヴィクター&ロルフ(Viktor&Rolf)が手がけた‘シュール’なアイテムでショーウィンドウを飾る予定だ。

■‘シュルレアリスム’って何?

 ‘シュール’という言葉は、モンティ・パイソン(Monty Python)やエディ・イザード(Eddie Izzard)の繰り広げるコメディ劇やデヴィッド・リンチ(David Lynch)の映画を称する際にも使われる。それでは、私たちを惹きつける‘シュール=超現実’とは一体何だろうか。

 ダリは自身は‘シュール’という言葉に関連して「世界にはもっと幻想的なものが必要だ。われわれの文明は機械的すぎる。われわれが生み出すことのできる‘幻想的な真実’は、実在するものよりはるかにリアル(超現実的)なのである」と語っている。

 シュルレアリスムはジークムント・フロイト(Sigmund Freud)の精神分析やジョルジョ・デ・キリコ(Giorgio de Chirico)の形而上絵画作影響を受け発展。シュルレアリスム作品には大きく分けて2つの潮流があり、無意識を偶然性の強い手法で造形化する手法と不条理の世界を写実的なタッチで具現化する手法がみられる。

■誕生から80年、未だ衰えぬ驚きと感動

 シュルレアリスムが誕生してから約80年間にわたり多くの展覧会が行われてきた。しかし、当時の作品は今もなお私たちに新鮮な驚きと感動を与えてくれるものである。今回展示されるダリの代表作品‘ロブスター・テレフォン’や女優メイ・ウエスト(Mae West)の唇を模った‘リップ・ソファー’の持つ魅力は衰えることを知らない。

 『シュルレアル・シングス』のキュレーターを務めるギスレン・ウッド(Ghislaine Wood)は、1920年代に誕生した概念が現代人の心を惹きつけていることに対して「シュルレアリスムは変幻自在なのです。決まった見方は必要なく、無限の解釈が可能となるのです。シュルレアリスムとはひとつの教義上ではなく、より比喩的で折衷主義的なものなのです」と語った。

 会場には、グロテスクな立体で有名な若手アーティストチャップマン・ブラザーズ(Chapman Brothers)の作品や 、イタリア人アーティストのレオノール・フィニ(Leonor Fini)の拘束的な女性の下着を模った「コルセット・チェア(Corset Chair)」が展示される。

■ファッションと‘シュルレアリスム’の関係

 ココ・シャネル(Coco Chanel)とともにパリ・オートクチュール界に君臨したエルザ・スキャパレリ(Elsa Schiaparelli)による「ティア・ドレス(Tear Dress)」も今回公開される。このドレスは、引き裂かれた肉の図柄がプリントされているという大胆な作風。また、エルザがヴァンドーム広場に所有していたショップのウィンドウ・ディスプレイを手掛けていたのが、彼女の友人ダリだ。会場では、再現されたショップディスプレイも目にすることができる。

 さらに、マン・レイ(Man Ray)の写真が『ハーパス・バザー(Harpers Bazaar)』誌や『ヴォーグ(Vogue)』誌に掲載されるなどシュルレアリスムとファッションの関係は深い。当時の『ヴォーグ』誌アート・ディレクターは「今日スキャンダラスとされた芸術は、明日には人々に受け入れられ、明後日にはひとつの商品になるのだ」と語った。

 写真はヴィクトリア&アルバート博物館で27日に開催された『シュルレアル・シングス』内覧会にて撮影されたサルバドール・ダリ作‘ロブスター・テレフォン。 (c)AFP/CHRIS YOUNG