【9月28日 AFP】タイとの国境にあるミャンマー南東部の町ミャワディ(Myawaddy)では、タイに通じる「友好の橋」を安価なタイ製品やミャンマーの労働者らが行き交う姿が、毎日のようにみられる。

 タイからわずか数キロの位置にあるため、ミャワディからは毎日数百人のミャンマー人労働者が国境を越える。タイで1日働けば、ミャンマーの月収分以上が稼げるのだ。

 連日、ミャンマー各地で大規模な反政府デモが続くなか、これらの製品や労働者に加え、新たに「情報」がこの橋を越えるようになった。

■デモを報じないミャンマー国営メディア

 ミャンマーの多くの都市同様、ミャワディでも手に入るのは軍部を賞賛する国営の新聞だけだ。町の唯一のインターネットカフェからもパソコンが撤去された。

 世界中がミャンマー各地での僧侶や市民による反軍政デモの行方を注視する一方で、ビルマ語のテレビや新聞は事件をほとんど報じていない。

 ミャワディの多くの住民はデモのことをほとんど知らず、「ヤンゴン(Yangon)で大事件があったらしいが、何かは分からない」、「きっと大した事件ではないだろう」などと語り合っているのが実情だった。


■タイから越境する情報

 一方、タイのテレビでは、ミャンマーの軍隊や警察が武力鎮圧を図るなか静かに行進する僧侶の姿が放映されている。タイ側での日中労働を終えて夕刻にミャンマー側に「帰国」する人々の中には、こうした映像をタイ側で目撃し、「反軍政デモ」の情報を持ち帰る人が現れ始めた。

 また、タイのテレビ映像が衛星放送を通じミャンマーの家庭や職場に届く場合もある。

 タイのテレビニュースがヤンゴンのデモの様子を放映すると、ミャワディ住民らは作業の手を止めて画面に見入る。チャンネルはすぐに地元ニュースに変えられてしまうが、数か月前には考えられなかった光景だ。

■ミャワディ住民の反応は

 セールスマンの男性(62)は「この国のテレビでは何も分からない。デモのことはタイのテレビで知った」と語る。

 タイテレビは沿岸部の都市モーラミャイン(Moulmein)でも反政府デモが発生したと報じているが、男性はミャワディに「反軍政」の動きが波及することはないだろうと考えている。しかし、1962年以来、40年以上も軍政が続くミャンマーで、変化が起こるのは歓迎だという。

 この男性は「ミャンマー人は長い間、民主化を求めてきた。タイのような民主主義が望ましい」と述べ、「国際社会の支援があればデモは勝利を治めるだろう」と期待を示した。

 一方、「デモを支持する」と明言する販売員の女性は、タイ語を理解できるため、タイのニュースを翻訳して友人らに伝えているという。

 この女性は、デモを主導してきた僧侶に対して軍部が武力を行使したというニュースについて、「ミャンマーの信仰を象徴する僧侶に対して暴力がふるわれたことを、皆悲しんでいる」と語った。

 こうしてタイから自国の詳細な情報が秘かに伝えられているにもかかわらず、ミャワディ住民らは表向きは沈黙を保っている。それは「無関心」なのではなく「恐怖心」による「沈黙」といえるだろう。(c)AFP/Charlie McDonald-Gibson