【4月30日 AFP】ロンドン(London)のフルハム地区のオフィスに通うマーチン・カディム(Martin Kadhim)さん(29)は、愛車ポルシェ(Porsche)のSUV「カイエン(Cayenne)」を手放さざるをえなかった運命を静かに受け止める。

 4WDを売らざるを得なくなった人は、カディムさんだけではない。10月から新たに、ロンドン市街地に入る高燃費車には1日あたり25ポンド(約5100円)の税金がかけられる見通しだからだ。

■ロンドン市長の「いちかばちかの政策」

 ロンドンでは2月から、排ガス規制の一環として、市街地に入る車に1日あたり8ポンド(約1600円)、大型トラックには1日あたり250ポンド(約5万1000円)もの渋滞税が課されている。

 こうした渋滞税を提唱したケン・リビングストン(Ken Livingstone)市長は現在、非難の矢面に立たされている。5月1日には市長選が行われるが、対抗馬のボリス・ジョンソン(Boris Johnson)候補(保守党)が高燃費車への税は導入しない考えを示していることもあり、リビングストン市長の再選を危ぶむ声もある。

 先のカディムさんはポルシェを売ったことで、自分の考えを口先だけでなく行動で示すことになった。彼は高燃費車から低燃費車に買い換える手助けをする会社の共同経営者だ。高燃費車への税を「いちかばちかの政策」と表現する。

 最近の世論調査では、環境政策を推進するリビングストン市長の支持率がジョンソン候補をわずかに上回ったものの、両者の支持率は拮抗している。それだけに、4WDの所有者たちは選挙の行方に注目している。市長が再選された場合には、4WDが一斉に手放されることになるだろう。

■渋滞税の実効性には疑問の声

 自動車メーカーも黙ってはいない。ポルシェは、高燃費車への税は違法で不公正だとして異議申し立てを行った。だが、リビングストン市長は「メーカー側は排出量を減らす努力をすべき」と一向に意に介さない。
 
 渋滞税が本当に渋滞の緩和に役立っているのかという疑問の声も上がっている。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(London School of EconomicsLSE)のトニー・トラバース(Tony Travers)氏は、「車は減ったが、歩行者専用ゾーンが増えたために、渋滞は緩和されていない」と語る。「(渋滞税は)増え続ける車に対する政府のささやかなストライキだが、それ以上のものではないような気がする」(c)AFP/Prashant Rao