【7月22日 AFP】俳優のトム・クルーズ(Tom Cruise)がアドルフ・ヒトラー(Adolf Hitler)暗殺未遂の首謀者を演じる作品「ワルキューレ(Valkyrie)」の撮影が19日、ベルリン近郊でスタートした。

 バーベルスベルク・スタジオ(Babelsberg Studios)の広報担当はAFPに対し、同作品のディレクター、ブライアン・シンガー(Bryan Singer)がベルリン近郊で「ワルキューレ」の撮影を開始したと伝えた。

 ドイツ当局は、ドイツ国内では弱者を食い物にする「全体主義集団」として認知されている新興宗教サイエントロジー教会(Church of Scientology)を信仰するトム・クルーズはドイツ人殉教者を演じるには不適格だと言及し、クラウス・シェンク・フォン・シュタウフェンベルク(Claus Schenk von Stauffenberg)大佐役としてトム・クルーズを選択した決定に懸念を表している。

 アンゲラ・メルケル(Angela Merkel)首相が党首を務めるキリスト教民主同盟(Christian Democratic Union、CDU)のFrank Henkel氏は、「クルーズは私の父から手を引くべきだ」と発言したシュタウフェンベルク大佐の72歳になる息子Berthold氏を含め、多くの政治家が厳しい批判をしていることを受け、「私はシュタウフェンベルク大佐は人々のために立ち上がったと思っている。トム・クルーズはシュタウフェンベルク役には不適切なサイエントロジーの大使だと考えている」とNTVに対し語った。

 一方、サイエントロジーのベルリン支部のSabine Weber広報は、「信仰や団体の会員であることに関する議論が、決定に影響することはない」と語り、トム・クルーズの信仰に関する大衆の懸念は差別であるとした。

 連邦庁舎における撮影を管理するドイツ財務省の広報は、ブライアン・シンガーに対し、1つの例外を除き申請した全ての場所での撮影許可を得たことを明らかにした。

 同広報はシュタウフェンベルク大佐の処刑場所となったベルリンの旧陸軍本部、Bendler Blockでの撮影は許可されなかったことを明らかにしたが、「1つ除いて全ての場所での撮影許可を出したという事実からも、俳優の信仰が重要でないことが分かると思う」と語り、決定がサイエントロジーとは何ら関係が無いとした。またBendler Blockで以前に撮影が行われたことを認め、過去の決定は間違いであったとした。

 シュタウフェンベルク大佐は、自らの命を懸けてヒトラーを止めようとしたドイツ人がいたとう証として、戦後のドイツでは人々の意識の中に生き続けている。

 当初は熱心なナチスの一員であったシュタウフェンベルクだが、ヒトラーがドイツを終わりの無い悲惨な戦争に巻き込んでいることに気づいた。

 シュタウフェンベルク大佐は1944年7月20日、当時の東プロシアにあったナチス(Nazi)の東部方面司令部での会議で、テーブルの下に爆弾を仕掛けたかばんを置き、ヒトラー暗殺を狙った。しかし爆発前に別の将校が、カシ製のテーブルの丈夫な足の後方に鞄を置きなおしたため、ヒトラーは軽傷を負っただけだった。大佐はその日の内に共謀者と共に捕らえられ、銃殺された。

同作品の撮影は翌年の公開に向け、10月31日まで行われる予定となっている。

(c)AFP/Deborah Cole