【1月31日 AFP】スイスのスキーリゾート地ダボス(Davos)で開かれていた世界経済フォーラム(World Economic Forum)年次総会(ダボス会議)が30日、閉幕した。集まった世界の政治経済の指導者らは、講演、雑談、パーティーと連日の過密日程をこなして疲れ切った末に、社会の「燃え尽き症候群」について考えさせられることになった。

 景気低迷、24時間休みなしのコミュニケーション、「成功」することへの絶え間ないプレッシャーによって、ストレスに起因する疾病や燃え尽き症候群が社会の中に増えつつある――。応用心理学の専門家らがダボスで開いた講演には満員の聴衆がつめかけた。

「将来、世界の保健制度における最大の課題は、ストレス関連疾病になるだろう」と、北西スイス大学(University of Northwestern Switzerland)応用心理学部長のハインツ・シェプバッハ(Heinz Schuepbach)教授は述べた。この現象は急速に拡大しているという。

■急速に広がる「病気でも出勤する人びと」

 ドイツの保険会社が今週発表した調査によると、欧州の経済大国では、勤労者の5人に1人が仕事上のストレスが原因で病気になっている。ドイツにおける抗うつ剤の売り上げは、過去4年間で40%以上増えた。

 シェプバッハ教授は、今年のダボス会議でも重要議題となった金融危機が、世界中のストレスの度合いを引き上げたと指摘した。病気にかかっても、解雇される不安から仕事を休みたがらない勤労者が増えているという。「これは新しい現象だ。問題は今や、アブセンティズム(常習的な欠勤による問題)からプレゼンティズム(病気でも出勤することによる生産性低下)に移っている。病気で自宅療養しているべき人びとが出勤してしまうのだ」

■経済が社会に与えるプレッシャーが背景に

 ストレス疾患が専門のスイスの病院に勤めるトニ・ブリューラム(Toni Bruehlamm)主任医師も、燃え尽き症候群は正式な病名ではないため「患者数」の統計は取りにくいものの「確実に増加している」と警告する。「経済が社会に及ぼす影響が大きすぎる。能力や金銭などの経済的要素が重要になりすぎた。利益や金銭を偏重しており、健康的ではないのだ」

 講演の最中も、聴衆の中にはスマートフォン(多機能携帯電話)で電子メールをせっせと打つ人もいれば、居眠りをする人の姿も。シェプバッハ教授は、現代のコミュニケーション環境と、24時間ずっと縛られ続ける仕事文化こそが、この新現象の原因だと指摘した。

■ダボス会議参加者も「へとへと」

 食料価格の高騰、環境問題、長引く債務危機といった問題が影を投げかけた今年のダボス会議。主宰のクラウス・シュワブ(Klaus Schwab)氏も、「世界的な燃え尽き症候群」のリスクに警鐘を鳴らした。

 だが、今年初めて参加した企業トップの1人は、ダボス会議そのものも燃え尽き症候群を減らす役には到底立ちそうにない、とぼやいた。「朝7時から活動し始めて、パーティーやら何やらで早くても(翌日の)午前2時まで解放されない。もうへとへとです」(c)AFP/Richard Carter