【7月11日 AFP】英日曜大衆紙「ニューズ・オブ・ザ・ワールド(News of the World)」の電話盗聴スキャンダルをめぐり、メディア王ルパート・マードック(Rupert Murdoch)氏の片腕として同氏の英国メディア支配を支えてきたレベッカ・ブルックス(Rebekah Brooks)氏(43)の責任を追及する声が、英政界で高まっている。

 ただ、ブルックス氏には一向に屈服する気配がない。

 赤毛が印象的なブルックス氏は、秘書からニューズ・オブ・ザ・ワールド編集長へとのし上がり、英大衆紙「サン(The Sun)」の編集長を務めた後、両紙を所有するマードック氏の傘下企業、ニューズ・インターナショナル(News International)の最高経営責任者(CEO)に登りつめた。

 そのキャリアを通して見えてくるのは、ブルックス氏のチャーミングさ、容赦なくニュースを追い求める姿勢、非常に社交熱心なところ、そしてマードック氏に対する極端なまでの忠誠心だ。

■マードック氏の「7番目の子ども」

 マードック氏のほうもブルックス氏を、6人いる実子に次ぐ「7人目のわが子」のように扱っているとされる。観測筋によれば、ブルックス氏が盗聴スキャンダル発覚後も現職に留まっていられるのは、ひとえにメディア王との親交ゆえだという。

 ブルックス氏は、2000~2003年にニューズ・オブ・ザ・ワールド編集長を務めた。これは、問題となっている殺人事件被害者や戦死した兵士の遺族などの電話が盗聴されたとされる時期と一部重なっている。このため、野党・労働党(Labour Party)のエド・ミリバンド(Ed Miliband)党首はブルックス氏の辞任を求め、同氏とは友人のデービッド・キャメロン(David Cameron)首相も8日、ブルックス氏が辞意を表明するなら支持すると述べた。

 だが、ブルックス氏は盗聴について全く知らなかったと主張しており、マードック氏もブルックス氏への全面支援を表明している。

 有識者の多くは、マードック氏が168年の歴史を持つニューズ・オブ・ザ・ワールド紙を廃刊にした決断について、ブルックス氏を救うためだと見ている。そこまでしてマードック氏がブルックス氏を守る理由は何か?

 英キングストン大学(Kingston University)のブライアン・キャスカート(Brian Cathcart)教授(ジャーナリズム学)は、マードック氏の息子であり後継者であるジェームズ・マードック(James Murdoch)氏に対する防波堤だと分析する。「彼女が落ちれば、次はジェームズになる。ルパートにはそんな代償を支払うつもりはないのだ」

■武器はチャーミングさ、「タブロイド女王」の横顔

 ブルックス氏は14歳のころにジャーナリストを志し、地元紙を経て20歳でニューズ・オブ・ザ・ワールドに就職、2000年に同紙編集長となった。3年後、英人気大衆紙サンの初の女性編集長となり、6年間を過ごした。この経歴と、テレビ俳優との最初の結婚によって、ブルックス氏はニューズ・オブ・ザ・ワールドの盗聴の対象にもなったこともある。

 2009年、2度目の結婚の際の来賓には、キャメロン首相やマードック氏、元労働党首相のゴードン・ブラウン(Gordon Brown)氏らが名を連ねた。

 同僚たちはブルックス氏について、「チャーミングさを利用して欲しいものを手に入れる才能がある」と語る。英新聞業界でささやかれる伝説によれば、ブルックス氏は清掃員に変装してライバル紙サンデー・タイムズ(Sunday Times)の社内に潜入し、トイレに2時間ほど潜んだ後、タイムズの重役の1人とどこかへ去って行ったという。

 また、ブルックス氏は児童性愛者の「名前を公表してはずかしめる(name and shame)」キャンペーンを立ち上げたことでも有名だ。このキャンペーンにより英国では暴動が起こり、一部の小児科医が非難されるという事態も起きた。(c)AFP

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