【7月15日 AFP】メディア王ルパート・マードック(Rupert Murdoch)氏は今年80歳になるが、傘下の新聞の電話盗聴スキャンダルが英国から米国へと広がる様相を見せ、生涯をかけて築き上げてきた「メディア帝国」に今、影を投げ掛けている。

 盗聴スキャンダルを起こした英日曜大衆紙「ニューズ・オブ・ザ・ワールド(News of the World)」を傘下に置く米メディア大手ニューズ・コーポレーション(News Corp)会長のマードック氏は、創刊168年の同紙に対し、廃刊という大鉈(なた)を振るった。同紙には、殺人事件の被害者遺族やロンドン同時テロの被害者、アフガニスタンやイラクで戦死した英軍兵士遺族などの電話を盗聴した疑いがもたれている。

 マードック氏は警察の捜査への全面協力を約束し、英議会調査委員会への証拠提出にも応じる姿勢だが、米国でもニューズ・コーポレーションが、2001年米同時多発テロ事件の犠牲者の通話記録を入手しようとした疑いが浮上し、米連邦捜査局(FBI)が捜査の開始を発表した。

 一連のスキャンダルのため、マードック氏は英衛星放送大手BスカイB(BSkyB)の完全買収計画から撤退を余儀なくされた。

■老いてますます盛んなメディア王
 
 しかし、豪アデレード(Adelaide)の地方夕刊紙から「一大帝国」を築いた同氏を知る人びとは、その権勢は衰えを知らないと証言する。

 マードック氏の下で17年間働いた豪ジャーナリスト、ヒュー・ルン(Hugh Lunn)氏は、こう語る。「ルパート(マードック氏)の引退を願っている人たちは心底がっかりするだろうが、彼は衰えるどころか、ますます気合が入っている。力は増す一方で、80歳を超えてもまだまだやれるという見本だ」

 自分の年齢への言及を嫌うと言われるマードック氏だが、80年の歳月を豪州から欧州、米国、アジア、中南米へとまたがるビジネス帝国を築き上げることに費やしてきた。国際ニュース市場を彼のメディアの保守的な論調が支配していることへの批判や、ゴシップ紙の過熱報道は同氏の責任だという非難がある一方で、部下たちや、中にはライバルからでさえ、同じくらい多くの称賛も聞かれる。

■大陸またぐメディア帝国の拡大

 1964年に豪州初の全国紙オーストラリアン(The Australian)を立ち上げるなどして母国で基盤を作ったマードック氏は、次に英国へ進出。今回廃刊したニューズ・オブ・ザ・ワールド紙を1969年に買収し、英国市場で強力な足がかりをつかむと、続いてサン(The Sun)紙を買収し、爆発的な人気を誇る大衆紙に変身させた。

 英国での成功はさらにマードック帝国を潤し、1981年には高級紙タイムズ(The Times)およびサンデー・タイムズ(Sunday Times)の買収にも乗り出した。これには英国の支配層から猛烈な反発も起こったが、最終的に買収は認められ、マードック氏は英国で最も力を持つメディア経営者となった。

 80年代には傘下の各紙本社を、英国の伝統的な新聞街フリート・ストリート(Fleet Street)からロンドン東部ワッピング(Wapping)へ移した上、電子化によって人員を削減したことで激しい労使紛争も起きた。

 その後もマードック氏は、ビジネス上の利益の至近から至近へと移り住み、1985年に米国籍を取得。傘下に収めた米保守系メディアのFOXテレビや経済紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)など、放送、出版、インターネット、新聞の各業界にまたがるニューズ・コーポレーションの資産規模は、2010年時点で570億ドル(約4兆5000億円)、収益は約330億ドル(約2兆6000億円)に上っている。

 しかし、2月に102歳になったマードック氏の母、エリザベス・マードック(Elisabeth Murdoch)さんは、富や影響力が全てではないと言う。「わたしはいつも『誇らしい息子だわ』と周りの人たちに言っていますが、それは彼が良い父親であり、良い息子だから。それが誇らしいのです。裕福だからではありません」(c)AFP/Amy Coopes