■「愚か者ではない」

プロコペンコ氏はウクライナ侵攻前、ロシア中央銀行第一副総裁の顧問を務めていた。

その前は、当時は有力な経済紙だったベドモスチなどでクレムリン(ロシア大統領府)番記者を約10年間勤めていたが、プーチン政権が締め付けを強化し始めた2017年に記者資格を剥奪された。

プロコペンコ氏は取材対象全員に匿名を約束し、率直な意見を述べられるようにした。

ウクライナ侵攻開始の数か月前から国境にロシア軍が集結していたにもかかわらず、当時、プーチン氏がウクライナに侵攻すると考える人はほとんどいなかった。

ロシアのエリート層の多くはプーチン氏が戦争を始めるほど愚かではないと考えていたからだ。プロコペンコ氏の取材に応じた一人は、「あの老人(プーチン氏)は確かにサイコ(狂人)だが、愚か者ではない」と述べたという。

戦争勃発(ぼっぱつ)は衝撃的だった。プーチン氏は、西側をモデルに計画経済から資本主義(市場経済)への移行を進めてきた数十年にわたる努力を台無しにしたからだ。

取材対象の一人は、「何千人もの人々が何十年もかけて事業を築き上げてきた」「プーチンはそれをたった数か月で台無しにした」と述べた。

当初のプーチン氏を説得してウクライナ侵攻をやめさせる試みは失敗に終わり、その後まもなく、エリート層はウクライナ侵攻を受け入れた。ウクライナ侵攻をいち早く支持した人物の中には、かつてリベラル派の有力者と見なされていたイーゴリ・シュワロフフ元第1副首相もいた。

プロコペンコ氏によると、ロシア開発対外経済銀行(VEB)会長を務めるシュワロフ氏は、ウクライナ侵攻を支持するシンボルの「Z」の文字がプリントされたTシャツを着て誕生日パーティーに現れた。

プロコペンコ氏は、取材した人の中でウクライナ侵攻を支持する人はいなかったが、それを公言する勇気のある人はいなかったと述べた。

取材対象の一人は、「口にしたところで何も変わらないし、誰の役にも立たない」「それに怖い」と語ったという。

中にはプロコペンコ氏のように職を辞して国外に出た人もいたが、国有部門での大量辞職は起きなかった。

一部の職員は制裁対象となったが、ならなかった職員は安定した職を失いたくない、ロシアにとって重要な時期に自分たちの専門知識が必要だと感じていた。