【三里河中国経済観察】内陸水運が地域経済の新たな原動力に
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【6月19日 CNS】内陸の河川輸送をめぐる静かな競争が、いま着実に始まっている。
5月8日、浙江省(Zhejiang)が「高水準で『航運浙江』を建設するための実施意見」(以下「実施意見」)を発表し、内河(内陸河川)水運の特長と優位性を最大限に活かし、2035年までに内河水運の発展レベルを世界先進国の水準に引き上げる方針を打ち出した。
現在、河南省(Henan)でも「2025〜2035年内河航路および港湾配置計画」の改訂案が意見公募段階に入っており、内河航運のボトルネックを解消し、交通インフラの再構築を進める方針が明確に示されている。
高速鉄道と高速道路が縦横無尽に整備された経済大省の浙江と河南が、なぜいま、あえて内陸水運に注目しているのか?
■中部の経済大省・河南、長江デルタへの接続を目指す
内陸部に位置する河南省は、長らく「川にも海にも接していない」イメージを持たれてきたが、実際には淮河流域が広がり、水運がかつては盛んだった。
1960年代末、河南省では27の河川が外洋と接続され、航行可能な距離は6100キロを超え、当時の全国輸送量のうち48%を水運が占めていた。
しかしその後、高速鉄道や高速道路の急速な発展とともに、河南省の内河航運は次第に衰退していった。
近年、河南省は再び「水路で外洋へ」の重要性を再認識し、内河水運をかつてないほど重視し始めている。たとえば2023年9月には、内河水運の高品質発展をテーマとする会議を開催し、「全省を挙げて取り組むべき重大事業」と位置づけた。2025年は「水運発展全面建設年」として設定されている。
2025年2月には、河南省周口市(Zhoukou)が全国37の「港湾型国家物流ハブ都市」のひとつに指定され、河南における水運復興の重要なマイルストーンとなった。
■河南が水運を復活させようとする背景には何があるのか?
答えのひとつは「最後の弱点を補うこと」だ。航空・鉄道・高速道路・水運の4つを統合した総合交通体系は、交通大国の条件とされる。河南では航空・鉄道・道路網はすでに整備が進んでいるが、水運だけが遅れており、物流ネットワーク上の最後の穴となっている。水運を強化することで、「豫(河南)産品」の海外輸出に新たなルートが開ける。
もうひとつは「長江デルタ経済圏との接続」だ。実際、港湾は河南が長江デルタ(上海、江蘇省<Jiangsu>、浙江省)と接続するための前線基地とされており、例えばブラジル産の大豆は江蘇省・連雲港から内河を経由して河南省・周口港に届き、下船後すぐにパイプラインで工場に送られ、豆油や飼料に加工されている。
■沿海大省・浙江、省内水運の価値を再発見
河南省が水運復興を図るのは歴史的・地理的理由があるが、港湾・空港・高速道路・鉄道のインフラがすでに整っている沿海省の浙江省までもが内河航運に力を入れるのは、やや意外とも言える。
しかし、物流の観点から見ると水運は輸送力が大きく、コストが低い。内河水運は、鉄道の3分の1、道路の5分の1のコストで済むとされており、社会全体の物流コストを削減する国策の中で、浙江省が内河航運システムの近代化に注力するのは合理的な選択と言える。
試算によると、2024年の物流費が1ポイント低下するだけで、浙江省全体の物流コストを900億元(約1兆8061億円)以上削減できる可能性がある。水路輸送を拡大すれば、それに比例して大幅なコスト削減が見込める。
実際、浙江省ではすでに水運で独自の成長戦略を描いている都市もある。
例えば、沿海に面していない浙江省湖州市(Huzhou)では、地元企業が生産する家具や家電などの製品を、内河港である湖州港から米国、タイ、ヨーロッパへ直接輸出している。
2024年、湖州港の貨物取扱量は1億4800万トンに達し、全国の内河港では第8位、長江(揚子江、Yangtze River)本流を除く内河港としては全国第1位を記録した。
また浙江省が注力しているのが「浙贛運河(浙江〜江西運河)」の建設構想だ。浙江省の常山江と江西省(Jiangxi)の信江は直線距離でわずか30キロほどだが、両者は水路で接続されておらず、浙江省の内河ネットワークと長江水系が分断されているのが現状である。
今回の「実施意見」では、浙贛運河の整備構想が明記され、両河川を人工運河でつなぐことで、浙江省中西部と長江経済圏を直接結ぶ新たな水路が誕生し、地域をまたぐ大動脈として重要な意味を持つことになる。
経済大国が内河航運に本格的に取り組むことは、地域経済の構造に大きな影響を与えると同時に、中国国内外の「双循環」(国内と国際の循環)をより滑らかに接続する持続的な原動力にもなり得るだろう。(c)CNS-三里河中国経済観察/JCM/AFPBB News