【3月27日 AFP】中央アフリカの首都バンギで今月初め、フランスの飲料大手カステル(Castel)が所有するビール醸造所で放火事件があった。防犯カメラは、ロシアの民間軍事会社ワグネル(Wagner)を想起させる戦闘服を着用した4人による犯行を捉えていた。

 一行は3月5日の夜、カステルの子会社MOCAFの醸造所の倉庫に積まれたビールケースに火を付けた。だがこれは、放火魔が偶然この場所を選んだのではなかったとみられている。

 消息筋によると、今回の事件には、豊かな森林や金、鉱物資源に恵まれた中央アフリカで、ロシアの影響力強化を手段を選ばず試みる特徴が顕著に表れているという。

 フランスとロシアは長く、中央アフリカでの影響力をめぐって角逐してきた。しかし両国間の対立はこれまで、中央アフリカとフランスの関係悪化をもくろんだ反仏の言説流布という形にとどまってきた。

 フェイスブック(Facebook)は2020年12月、ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン(Yevgeny Prigozhin)氏に絡むグループに支配されているとうわさされたフェイクニュースなどの発信源のほか、仏軍に関係するとされるアカウントを削除した。

 仏軍は中央アフリカが1960年に独立して以来駐留し、2013年に内戦が勃発した際には情勢の安定化を支援してきたが、昨年12月に完全撤収した。

 ただ、両国関係改善の兆しを示すように、中央アフリカのフォスタンアルシャンジュ・トゥアデラ(Faustin Archange Touadera)大統領は今月、アフリカを歴訪したエマニュエル・マクロン(Emmanuel Macron)大統領とガボンで会談した。醸造所への放火事件が起きたのは、その数日後のことだった。

 仏パリ政治学院(Sciences Po)のアフリカ専門家、ローラン・マルシャル(Roland Marchal)氏は、「ロシアはトゥアデラ大統領と西側が融和に動く可能性を懸念しており、阻止するためにはあらゆる手段を講じてくるだろう」との見方を示した。

■仏系企業が標的に

 カステルと地元の有力企業であるMOCAFは今年に入り、ソーシャルメディアや街で多くの批判にさらされた。特に、カステルは格好の標的になった。

 というのも、カステルが砂糖精製工場の用地確保をめぐって中央アフリカの武装勢力と金銭の取引を行った疑惑が浮上し、同社による「戦争犯罪への共謀」容疑で仏反テロ検察当局が予備的な捜査を開始したからだ。

 1月中旬には、醸造所付近で数十人のデモ参加者が「カステル=テロリズム」「カステル(の飲料)を買うのは、自分の殺害に金を払うようなもの」といったプラカードを掲げた。

 在仏カステル幹部は匿名を条件に、放火事件の前には醸造所への侵入未遂事件があったと明らかにした。

 同幹部は「1月30日、外出禁止令の最中、目印のない自動車から3人の白人男性が降車し、(醸造所に)はしごを持って近づいたが、警備員の姿を見て逃走した。その日の夜には醸造所の上空にドローンが飛来した」と語った。