【11月22日 AFP】アフリカ西部マリからフランス軍が撤退して以来、マリのイスラム過激派は、情報戦の標的を仏軍からロシア民間軍事会社「ワグネル(Wagner)」へとシフトさせている。同社の傭兵(ようへい)が、民間人に残虐行為を働いていると主張している。

 フランスは、イスラム過激派を掃討するためマリに派兵していたが、2020年のクーデターで権力を握ったマリの軍政から圧力を受け、介入開始から9年以上が経過した今年8月、同国から軍部隊を撤退させた。

 欧米の情報筋によれば、軍政はロシア、特にワグネルの後ろ盾を求めている。一方、軍政側はそうした事実を否定。支援はロシアの軍事「教官」からしか受けていないとしている。

 しかし、国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)系イスラム過激派組織「イスラムとムスリムの支援団(JNIM)」の矛先は、ワグネルに向けられている。

 紛争関連のデータ収集を専門とするACLEDのヘニ・ヌサイビア(Heni Nsaibia)上級研究員は、「ワグネルは主にマリ中部の半遊牧民フラニ(Fulani)人コミュニティーで活動している。そこはJNIMが保護役を買って出ている場所だ」と説明。「共同作戦を展開するマリ軍、ワグネルと、JNIMとの間で衝突が頻発している」と語った。

 2014年のウクライナ紛争で頭角を現したワグネルについて、西側は、シリアや中央アフリカ共和国などの紛争地域でロシアのために「汚い仕事」に従事しているとの見方を示している。ただ、ロシア側はそうした見方を一貫して否定している。

■「民族戦争」

 JNIMは先月末、中部バンディアガラ(Bandiagara)で奇襲作戦を行い、「イスラム教徒を標的に民族戦争を仕掛けているマリ兵やワグネルの傭兵、親政府民兵」を捕らえたと発表。さらに、政府軍に奪われた家畜をフラニ人に返還したと主張した。

 ドイツ・ボン国際紛争研究センター(Bonn International Centre for Conflict Studies)のブバカル・ハイダラ(Boubacar Haidara)研究員は、「イスラム過激派集団は長年、軍やその代理集団による民間人の殺害が横行しているとして、地元住民を守る役割を買って出ている」と指摘。そうした行為は「自らの暴力行為を正当化するための隠れみの」であり、「ロシア要因(ワグネルの展開)」のおかげで活動がさらにやりやすくなったと分析した。それに伴い、「民間人の犠牲も一段と増えている」としている。

 国連(UN)によると、今年前半にマリで殺害された民間人860人のうち、大半はイスラム過激派の手によるものだった。全体の40%に相当する344人は軍の作戦により殺害された。

 フラニ人コミュニティーを支援する監視団体キサル(Kisal)のビンタ・シディベ・ガスコン(Binta Sidibe Gascon)氏は、「民間人に対する残虐行為がどの程度のものかで人々は判断する。ワグネルが来てから、特に中部ムラ(Moura)で起きた事件の後、民間人の犠牲急増が顕著だ」と述べた。