【10月4日 AFP】「サメ」を自称する元競泳男子のマイケル・フェルプス(Michael Phelps)氏(37)は現役時代、史上最高の選手になるという夢を追い求めて足を止めずにトレーニングを積んだ。歴代最多となる五輪での23個を含め60個以上の金メダルを獲得したが、メンタルヘルスを啓発するという現在の仕事以上に重みのあるメダルはないという。

 長年うつ病を隠した過去を持つフェルプス氏は、先日フランス・パリで開催されたイベントでAFPのインタビューに応じ、引退後のキャリアは、現役中の過酷なスケジュール以上に多忙だと話した。

「あと一つ金メダルを獲得するよりも、命を救う機会を持つことの方が重要だ」

「われわれはあまりに多くのアスリートを自殺で失ってきた。もうこれ以上、五輪ファミリーのメンバーを失いたくない」

 金6個を含む計8個のメダルを獲得したアテネ五輪イヤーの2004年に初めてうつの兆候が表れたというフェルプス氏。「競争は一番好きなことの一つだった。私はサメで、水中で血のにおいを嗅いで進み続けた」と当時を振り返る。公にすることは「弱さの表れで、ライバルを利する」と恐れていたと明かし、「生きていたくないという時期もあった」と話した。

 ドキュメンタリー作品「The Weight of Gold」の制作に参加したフェルプス氏は、メンタルヘルスとの闘いを公表した女子テニスの大坂なおみ(Naomi Osaka)と体操女子のシモーネ・バイルス(Simone Biles、米国)を称賛した。

「なおみをたたえなくてはならない。彼女はSNSというプラットフォームで、自分が経験したことを自分の言葉で表現した。それは簡単なことではない」

 バイルスについては「彼女の場合、キャリア最大の瞬間(東京五輪)に起きてしまった。それがメンタルヘルスの病気がいかに予測不能であるかを示している」と指摘すると、「こんなふうにはじけるんだ」と指を鳴らし、「もっと多くの人が打ち明け、人々が築いてきたこの壁や境界を低くしていかないといけない」と訴えた。

 現在は6歳、4歳、3歳の3人の男の子の父親でもあるフェルプス氏。妻ニコールさんとの暮らしは「ノンストップで以前よりも忙しい。スポンサーと仕事をしたり、モチベーショナルスピーチをしたりして、世界中を飛び回っている」という。

「(ニコールは)目が覚めて素晴らしい気分のときもあれば、その翌日は目覚めて全く違う人間になっているときもあると教えてくれる。そのバランスを取ることに尽きる」

「これは永遠に解決することがないかもしれない継続的な旅になる」 (c)AFP/Emmeline MOORE