【3月9日 東方新報】北京冬季五輪が終わった今も、中国では大会の公式マスコット「氷墩墩(BingDwenDwen)」の人気が続いている。北京や上海の公式ショップでグッズは売れ切れ状態。店員は「予約販売のみで、入荷は2か月後になります」と説明している。日本でも定価55元(約1000円)のキーホルダーや198元(約3600円)のぬいぐるみがメルカリで数倍の値段となって売られている。

 日本でもすっかり認知された氷墩墩だが、2008年北京夏季五輪の公式マスコット「福娃(FuWa)」を覚えている人はごく少数だろう。

 小さな子どもをイメージした福娃には、五輪史上最多の5体のキャラクターがいた。中国の伝統画「連年有魚」や土器の文様をイメージした青色の貝貝(Beibei)、宋代の焼き物やパンダをモチーフにした黒色の晶晶(Jingjing)、敦煌(Dunhuang)壁画の炎の文様を取り入れた赤色の歓歓(Huanhuan)、チベットカモシカがモデルの黄色の迎迎(Yingying)、沙燕凧(ツバメを模したタコ)を原型とした緑色の妮妮(Nini)。5体の名前を合わせると「北京歓迎你(Beijing Huanying Ni、訳:北京へようこそ)となるのだが、中国の歴史・文化や地域の特徴を各キャラに「詰め込みすぎ」と言えるほど取り入れていた。中国で初めて五輪が開催されることを誇りに思い、中国の悠久の歴史や豊かな文化を全世界にアピールし、全国民が一体となって五輪を盛り上げる-。そんな、肩に力が入ったような「気合」が感じられた。

 福娃のキャラクターやイラストは中国各地のいたるところで見られ、グッズの売れ行きも好調だった。一方で、外国人からはデザインが「やぼったい」と感じ、五輪が始まっても海外メディアやアスリートから注目を集めることは少なかった。

 それから13年の時を経て再び北京で開催された冬季五輪。今回の公式マスコットは氷墩墩の1体で、中国のシンボルであるパンダがそのままデザインに使われた。大会前、コロナ禍により中国でも五輪のお祝いムードが高まらなかったこともあり、「パンダなんて、ベタすぎる」「工夫のないデザイン」と人気は低調だった。

 しかし大会が始まると、一気に「氷墩墩ブーム」が巻き起こる。日本テレビの辻岡義堂(Gido Tsujioka)アナウンサーが番組で氷墩墩への熱烈な「愛」をアピールし、その映像が中国のSNSで拡散して人気に火が付いたことは知られているが、それだけが要因ではない。気候が激しく変わる冬季五輪ではメダルの授与は別会場で行われ、競技の直後はフラワーセレモニーが行われる。北京大会ではそこで氷墩墩の人形が手渡された。中国でアイドル的人気を誇る女子フリースタイルスキーの金メダリスト・谷愛凌(Gu Ailing)選手がセレモニーで氷墩墩を両手で掲げたシーンが繰り返し報道されるなど、アスリートと氷墩墩のコラボが人気に拍車をかけた。公式ショップでは開店前からグッズを求める市民の行列ができるようになった。

 氷墩墩への関心は海外でも高まった。欧米のアスリートたちは選手村の室内で氷墩墩のぬいぐるみと一緒に寝たり、手製の氷墩墩シーツを作ったりした動画をSNSに投稿。スキージャンプ男子ノーマルヒルで金メダルに輝いた小林陵侑(Ryoyu Kobayashi)選手が胸に氷墩墩のぬいぐるみを入れながらインタビューを受けたところ、本人がツイッターで「感謝のインタビューしたんだけど、パンダしか反響ないんだが、皆んな聞いてなかった?笑笑」と投稿した。中国でも絶大な人気を誇るフィギュアスケートの羽生結弦(Yuzuru Hanyu)選手と氷墩墩とのコラボは国内外で話題になった。日本では、LINE(ライン)で氷墩墩の日本語入りスタンプが無料で手に入るサービスもあった。

 手の込んだ福娃が「北京発中国止まり」の感もあったのに比べ、シンプルな氷墩墩は世界に羽ばたいた。北京で行われた二つの五輪は、中国のソフトパワーが変化していることを象徴していた。(c)東方新報/AFPBB News