【1月13日 AFP】起伏のない広大なオランダの農村地帯で畜産業を営むコルネ・デローイ(Corne de Rooij)さん(53)は、子牛の鼻先をいとおしそうになでながら、いつまで飼育を続けられるのかと憂えている。

 気候変動で低地が水没する危険にさらされているオランダにおいて、畜産業は温室効果ガスの主要排出源の一つだ。

 ベルギー国境に近いオランダ南部の北ブラバント(North Brabant)州リール(Riel)村で牛と鶏を飼育しているデローイさんは、「これが自分の情熱と人生です」と牛舎で物静かに語った。

 オランダの農民は、政府から最終的な選択を迫られている──より気候に優しい農業経営をするか、仕事を変えるかのいずれかだ。

 12月に発足した新連立政権は、2035年までに250億ユーロ(約3兆3000億円)を投じて家畜頭数を削減し、窒素排出量を抑制する取り組みを支援する意向だ。窒素は温室効果ガスの一種で、特に肥料や家畜のふんから放出される。

 1750万人が住み小国ながら人口密度の高いオランダは、家畜の飼育密度も高い。牛約400万頭、豚約1200万頭、鶏約1億羽が飼育されている。

 米国に次ぐ世界第2位の農産物輸出国であり、農業は国内の温室ガス排出量の16パーセントを占める。

■他に選択肢がない

 政府は農家の経営多角化や事業転換、技術革新などを推進する他、農地が自然保護区に近い場合は移転も支援している。ただ、要請に応じない農民に対しては、土地の没収などの非常に厳しい手段を講じる可能性もあると警告している。

 他にもう選択肢がないというのが政府の主張だ。住宅不足解消のための大型建設事業はすでに、温室効果ガス排出に反対する環境保護団体の提訴を受け、最高裁によって停止されている。

 政府は、農業部門の気候変動対策を加速させることで、2030年までに窒素排出量を半減させれば、これらの建設事業のうちいくつかを再開させることができると期待している。