【8月1日 AFP】聴衆は、牛だけ──。デンマークで活動する英国人チェロ奏者、ジェイコブ・ショー(Jacob Shaw)さん(30)は、新型コロナウイルス流行によってコンサートが開けなくなった後、珍しいお客さんの前で演奏を披露するようになった。その経験はとても有意義だったため、コンサートホールが営業を再開した後も活動を続けている。

「牛のために演奏するのは、ソリスト(独奏者)として私がずっと心掛けてきたことの延長線上にある」と、ショーさんはAFPに語った。「私は、クラシック音楽をコンサートホールの外に持ち出すことに情熱を注いでいる」

 スペイン・バルセロナ(Barcelona)のマーシャル音楽院(Marshall Academy)で教えるショーさんは、デンマークの首都コペンハーゲンから南へ車で1時間ほどの田園地帯の町ステウンス(Stevns)にチェロ教室を開校し、地域を回って演奏活動を行っている。

 音楽好きの農家に、飼育する牛の福利向上のためクラシック音楽を聴かせてはどうかと提案したのは、昨秋のことだ。「その話を聞いたとき、クレイジーだとは思わなかった。むしろ、わくわくした」と、畜産農家のモーンス・ハウゴー(Mogens Haugaard)さんは語る。

「音楽のリラックス効果は私自身が体感していたから、牛にも同じ効果があるだろうと思ったが、それは正しかった」

 まず冬の間、畜舎に設置したスピーカーからさまざまなクラシック音楽を流してみたところ、たちまち牛たちの琴線に触れたようだった。そのまま音楽を流し続けた結果、「牛たちは以前よりおとなしくなり、リラックスしていて近づきやすくなった」とハウゴーさんは言う。

 ショーさんによれば、牛たちは「素人」なので音楽の機微までは分からないかもしれないが、好きな曲と嫌いな曲があるという。「曲ごとに違う反応がみられる。ちょっとばかりキャッチーでモダンな曲を演奏したら、多くの牛が気に入らず、向こうへ行ってしまった」

 人気が高いのは「牛の声に最も近い曲」だという。ショーさんは「牛の鳴き声は実際、チェロの音に似ている。それが人気の理由だろう」と話した。

 チェロ教室の生徒や他の音楽家と一緒に、牛たちに演奏を聴かせることもよくある。ショーさんによると野外で、おそらくそれほど耳の肥えていない聴衆を前に演奏するのは、演奏家にとっても緊張がほどけて音楽をより楽しめる効果があるという。(c)AFP/Camille BAS-WOHLERT