■戻らない海外移住者

 周辺一帯の農村の例にたがわず、この地域のアッシリア人家族の多くは欧州や米国に移り住んでいる。

 10年ほど前、レジェプ・タイップ・エルドアン(Recep Tayyip Erdogan)大統領(当時は首相)は移住した人々の帰国を促すために、以前住んでいた土地の再取得を容易にすると約束した。しかし、土地が国に接収されていたり、隣人に占拠されたりしていた例も発覚している。

 トルコに住むアッシリア人にとって不幸の始まりは、1915年にさかのぼる。第1次世界大戦(World War I)中、同じキリスト教徒であるアルメニア人がオスマン帝国に虐殺されたのと同時期に、多くのアッシリア人も殺害された。迫害の生存者やその子孫は次第にトルコを離れた。

 1980年代にはシリアやイラクとの国境地帯で、少数民族クルド人の武装組織とトルコ軍の衝突が起き、アッシリア人のトルコ脱出が加速した。

 最近では2016年のクーデター未遂以降、エルドアン政権による政敵やクルド人への弾圧が続いている。アクタシュさんによると帰国の動きは現在、中断しているという。

■アルコール飲料の黄金時代

 エルドアン政権の下で3倍にも引き上げられたアルコール税や地元自治体の販売規制も、ワイン産業に対する圧力となっている。

 政府は今年5月、新型コロナウイルス対策で17日間のロックダウン(都市封鎖)を実施し、アルコル類の販売を禁止したが、これは世俗派の国民の反発を買った。

 ワインの販売を禁じたり規制したりする動きは、かえって販売促進につながるとアクタシュさん。「今のトルコはアルコール飲料の黄金時代を迎えています」と言う。「禁止措置への反動で売り上げが急伸しました」

 アクタシュさんは、トルコのアッシリア人文化にも同じことが起きるよう願っている。「ブドウはワイン造りの過程で搾られて死にます」。でも「そこからワインとして、永遠の命が始まります」。 (c)AFP/Burcin Gercek