■「自信はなかった」

 プロジェクトは、アカデミー賞(Academy Awards)受賞歴のある作曲家A・R・ラフマーン(A.R. Rahman)ら音楽界の著名人の称賛を受けて急拡大し、今では「MCジョシュ(MC Josh)」として知られるジョシュア・ジョゼフ(Joshua Joseph)さん(21)のような若い生徒らが、ヒップホップで自らの体験を表現するようになった。

 ジョゼフさんは、米国の黒人ラッパーが人種差別に光を当てることができたのだから、インド社会で疎外されている人々に対するあからさまな不平等と不当な扱いにも、ラップで光を当てることができるはずだと語る。

「ラップを始めるまでは、全く自信がありませんでした」とジョゼフさん。「スクールで人生が変わったんです」

 コロナの流行が始まったとき、ダラビは1か月間、厳格なロックダウン(都市封鎖)下に置かれ、ジョゼフさんの収入は一夜にして激減した。

 しかし、ムンバイ当局はすぐに、コロナを封じ込める鍵はダラビにあると考え、「ミッション・ダラビ」と銘打ったキャンペーンを立ち上げた。そして共同トイレの徹底的な消毒、発症した人がいないか毎日調べる「発熱キャンプ」の運営、結婚式場の隔離施設への転用、ステイホームの呼び掛けなど、強力な感染予防策を実施した。

 対策は効果を発揮した。2020年6月末までにコロナで死亡した人はムンバイ全体では4500人を超えたが、ダラビでは82人にとどまった。

 それから1年が過ぎ、コロナの影響でレッスンはオンラインに切り替わったが、参加する生徒は毎回100人を超える。半数はダラビの住民だ。この他、不定期で参加する生徒も300人おり、中には国外からの参加もある。