【5月19日 AFP】競技をおとしめるものとして、スポーツ界に根深く残る人種差別の問題。その問題に対処するべく、ブラジルで初めて、東京五輪の代表選手らを対象にした反人種差別研修が行われた。

 ブラジルオリンピック委員会(COB)は、4月上旬に30時間のオンライン研修を実施し、650人の選手とコーチ、医師、栄養士、関係者、代表スタッフに参加を義務づけた。

 COBの事務局長で、1992年バルセロナ五輪・柔道男子の金メダリストでもあるロジェリオ・サンパイオ(Rogerio Sampaio)氏は「研修の目的は、情報と知識を提供し、スポーツ界の人種差別をテーマとした幅広い議論のきっかけにすることだ」と話し、「人種差別は構造的な問題だが、スポーツ界として、もうこれ以上許してはならないと信じている」と続けた。

 人口の55パーセントが黒人か混血とされるブラジルは、新大陸では最も遅い1888年に奴隷制を廃止した。人口2億を超すこの国では、白人の収入が平均で有色人種の1.75倍近くに達するなど、人種間の不平等が積年の課題となっている。

 研修では、そうしたブラジルの不平等の歴史を概観し、スポーツ界の人種差別の現状を取りあげた上で、差別を目にしたり、被害に遭ったりした代表選手にできることは何かを伝えた。

 サンパイオ事務局長は、今回のような活動を立ち上げたのは、各国の五輪委員会でもブラジルが初だと話し、この研修を問題に取り組むための「第一歩」と呼んだ。事務局長は、「まだ十分ではないのは分かっているが、重要なことだ」と話している。

 ブラジルでは、スポーツ界を揺るがす差別事件がたびたび起こっている。

 元体操選手で、五輪出場経験もあるダイアネ・ドス・サントス(Daiane dos Santos)氏は、「インターネット上での差別を数多く目にしている。毎日のように起こっているが、ニュースが人々の元へ届くことは少ない」と嘆く。

 ブラジル体操界には黒人選手が少なく、差別が根強い競技として悪名が高い。現在38歳のドス・サントス氏自身も、現役時代に人種差別に遭ったことがある。2003年の世界体操競技選手権(FIG Artistic Gymnastics World Championships)・個人種目別ゆかで金メダルを獲得し、ブラジル体操界初の世界王者になった同氏だが、仲間から隣り合って練習するのを嫌がられ、何人ものコーチから、なぜ黒人が体操を選んだのかと言われたことがあるのだ。

「あれで精神力が育まれた。おかげで、あんなふうに抑圧されても生き延びることができた」と振り返るドス・サントス氏だが、今回の研修は必要不可欠な素晴らしい取り組みだと考えている。ドス・サントス氏は「罰を受けるべき人には罰を与えないと」と話し、言い訳を許してはならないと続けた。

 ブラジルの法律では、人種差別に対しては罰金、もしくは最長3年の禁錮刑が科される場合がある。COBも、人種差別を禁止するルールなど、委員会の倫理規定に違反した選手に罰金や処分を科す権利を持っている。(c)AFP/Rodrigo ALMONACID