【7月30日 AFP】1970年代以降、複数の無人着陸機と探査車が火星への着陸を成功させてきたが、この地球の隣の惑星に人類が到達するのは一体いつになるのだろうか──。専門家らは、技術的な課題はほぼ解決済みだが、政治的な配慮が有人探査計画の未来を不確かなものにしていると考えているようだ。

 米航空宇宙局(NASA)の火星計画で責任者を務めた米スタンフォード大学(Stanford University)非常勤教授のG・スコット・ハバード(G. Scott Hubbard)氏は、「人類が火星に到達するためのさまざまなアイデアや表、グラフなどにたくさん目を通した。数にするとおそらく1万程度だろう」とAFPの取材で語った。しかし、その一方で「提案を実現するための予算が投入されることは、これまでなかった」とも付け加えた。

 火星ミッションをめぐっては現在、米起業家イーロン・マスク(Elon Musk)氏が所有するスペースX(SpaceX)や米小売り・IT大手アマゾン・ドットコム(Amazon.com)のジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)最高経営責任者(CEO)が手掛けるブルー・オリジン(Blue Origin)といった民間宇宙開発企業が大型ロケットの開発に着手しており、火星への輸送能力は数十トンに上るとされている。

■遠方、単独

 火星への宇宙飛行は7か月間にも及ぶ。しかし、国際宇宙ステーション(ISS)での20年にわたる長期滞在と活動で得られた経験から、宇宙線による被ばくや無重力状態による筋萎縮といった問題への不安はすでに取り除かれている。人体への影響がまったくないということにはならないが、想定されるリスクは許容範囲内ということのようだ。

 火星には15か月間滞在する。これは、地球と火星とが再び近づくまでの期間だ。火星の表面温度は平均で零下63度となり放射線もあるが、宇宙飛行士らは宇宙服やシェルターがあるため、これらには対応できる。しかし、病気などの緊急を要する事態に直面しても遠い地球に戻るという選択肢はない。

 では、宇宙飛行士らはどのようなリスクを予期しておくべきだろうか。

 一つは骨折だ。しかし、NASAの支援を受けて現在ロボット式の静脈注射針を開発中というデューク大学(Duke University)の技術者で緊急治療室医師のダン・バックランド(Dan Buckland)氏によると、骨折にはギプスで十分対応できるケースが多いとされるため、これは問題なさそうだ。

 下痢、腎臓結石、虫垂炎なども大抵は治療可能だ。ただ、虫垂炎の症例の約3割は外科手術が必要となるため、その場合は命を落とすリスクがある。

 がんに関しては、宇宙飛行士の遺伝子や家族病歴の詳細なスクリーニング検査を実施することで、ミッション期間中に発症の恐れがある乗組員に注意することができる。

 こうした予見から、「健康状態の観点では致命的な問題は見つからない」とバックランド氏は述べる。